第7話

あれから一時間ほど立つが少女が目覚める気配がなく、俺たちは少女が目覚めるまで個々の時間を過ごしていた。

 ノワールは剣の素振り、センは木の上で寝ているが、恐らくスキルを使っての周囲の見張り、クロとシグマには少女を診てもらい、ムクロはというと〈アイテムボックス〉と【収納の指輪ストレージリング】に入っているアイテムを改めて整理をしているが、使えるアイテムはほとんど【収納の指輪】にしまっているから、意味がないが、やることがなく黙々とアイテム整理をしていると。


 「マイマスター!」


 突然シグマがムクロに呼びかけてきた。


 「どうした、シグマ?」


 「先ほどの少女が目を覚ましました」


 「えっ⁉」


 ムクロは慌てて少女の方を見ると、少女はゆっくりと目を開けだした。


 「──んっ······あれ······私は?」


 「気が付いたようだな、大丈夫か?」


 少女がムクロたちに気づき出すと、少女は警戒するように上半身を起こし後ろに下がる。


 「あ、あの──きゃ······ひっ⁉」


 少女は伏せていたクロへとぶつかり、クロを見て驚いき小さな悲鳴を上げた。


 「心配しないで、クロは俺の従魔だから君に危害を加えないから安心して」


 「そ、その······わ、私にいったい······?」


 「覚えないのか? 背中に酷い火傷を負った君が俺らの前に現れて、そのまま倒れ込んだんだよ」


 「え?」


 「けど大丈夫、背中の火傷は手持ちの【回復薬ポーション】で治したから、もう痛みはないはずだよ」


 「あの······あなた方は?」


 「あ、そうかまだ名乗ってなかったな、俺はムクロ。君の後ろにいるでかい狼がクロで、君の隣にいるのがシグマ。そんで俺の後ろにいるのが、ノワールと木の上で寝ているのがセン」


 「初めまして、私はメイドのシグマ。元気そうで何よりです」


 「私は主君の騎士ノワールと申します」


 「狼デハナイガ、我ハ、クロ初メマシテ」


 ムクロに続いてセン以外のシグマ、ノワール、クロの順に少女に自己紹介をした。


 「あ、あの、助けていただき、ありがとうございます······私は、フェルネス、です」


 「フェルネスか、いい名前だね」

 

 ムクロはフェルネスの1メートルほど前に座り込んだ。

 

 「させと、フェルネス、なんで森の中に?」


 「そ、それは······この森を通れば、ラデル帝国への近道なんです」


 ランデル帝国? ゲームでも聞いたことがない国の名前だ。


 「すまないがフェルネス。もう少しその国のことを詳しく教えてくれないか?」


 「え?······あ、はい」


 フェルネスは帝国について詳しく教えてくれた。


 ラデル帝国は敵対国であるフィルデル王国の西側に位置する国で、その帝国と王国との国境の間にあるのが、この森ってわけか。


 「他にも王国から帝国へと行けるルートはありますが、この森を通れば最短なのですが、慣れない人がここを通ると迷う森なんです」


 「なるほどね、つまり君は王国から最短距離で帝国へ行こうとしてたわけか?」


 「そ······そうです······はっ⁉ はやく逃げてください!」

 

 「えっ⁉」


 フェルネスが突然、焦りだした。


 「早くここから、逃げてください! 私は大丈夫ですので、治療のお礼は必ずしますので、今は逃げてください!」


 いきなりの事でムクロは状況が掴められずにいた。


 「ちょ、ちょっとまって、話が見えな──」


 突然ムクロに妙な悪寒を感じ始めた。


 この感覚、知ってる。ごく最近感じたこの感覚は······殺気。


 ムクロは悪寒を感じた方向を見ると、十数メートル先の虚空から火の球が現れだし、フェルネスに向かってきた。


 あれは〈火球ファイヤーボール〉⁉ でもなんで? 明らかに、この子を狙っている⁉


 ムクロはフェルネスに近いクロに指示を出そうとするが、咄嗟のことで指示が遅れ、〈火球〉がフェルネスの数メートルまでに迫ろうとしたその時。


 「世話が焼ける──〈縮地〉」


 〈火球〉の目の前にセンが突然現れだし、センが刀を鞘から抜刀した瞬間。〈火球〉は二つに分かれ、二つになった〈火球〉はフェルネスを逸れて、近くの木々にあたり爆破した。


 「······助かった、セン」


 「全く、不意打ちとはいえ、情けないぞ、あるじ


 そう言うとセンは刀を鞘に納めた。


 「すまない、セン、油断した······クロとシグマ、ノワールはフェルネスを守って」


 ムクロが立ち上がり、指示を出すとクロとシグマ、ノワールはフェルネスを守り始めた。


 「全く······だが、相手の姿がない」


 「恐らく、隠蔽系のスキルか装備品の類を使って姿を消してる。セン相手の数を探れるか?」


 「試してみる──〈明鏡止水〉」


 センは〈明鏡止水〉を発動させて、相手の数を探りだした。


 「······〈明鏡止水〉の範囲内では4、5人。恐らくまだいる」


 「だとすると、数がわからない以上、簡単には踏み込めない、どうすれば······」


 こんなに木々が多いともし戦いなると、邪魔になるどうすれば?


 ムクロは何かないか考えていると、ふとノワールの言葉がよぎった。


 「っ⁉ ノワール!」


 「はっ、はいっ!」

  

 「そういえば、さっきこの森には、開けた場所があるって言ってたよな」


 「は、はい! 言いました」


 「一番近いところでどこだ?」

 

 「でしたら、あちらを30メートルの方向です」


ノワールが目的の方向に指を指した。


 「よし、フェルネスをクロの背中に乗って、シグマ、セン、ノワールは相手を随時警戒!」


クロ、セン、シグマ、ノワールが頷くと、ムクロはフェルネスをクロの背中に乗せ始めた。


 「さぁ、乗って」


 「あの、いったい何を?」


 フェルネスが不安そうにムクロを見る。


 「心配しないで、クロにつかまって」


 フェルネスをクロに乗せ終えると、ムクロは目的の方向を向いた。


 「······行くぞ!──〈疾風〉」


 ムクロは砂をまき散らして走り出した。


 ムクロが使った【黒翼竜のブーツ】の装備スキル〈疾風〉は自身を一時的に加速させるスキルであり、回避や高速移動などに役立つ。


 ムクロが走り出すと、センたちムクロに続いて走り出した。十数秒ほどで目的の開けた場所へと着いた。


 よし、この広さなら充分に戦える。


 「······フェルネス、降りられるか?」


 「は、はい」


 「これから、危なくなるから俺の後ろに」


 フェルネスをクロから降ろすと。フェルネスはムクロの後ろに隠れた。


 「おい! 出てこいよ! もう隠れても無駄だ!」


 ムクロが大声で言うと、十数秒ほど経つと虚空から、兵士の姿が十数人と現れだし、最後に現れた男を見たフェルネスは、ムクロの外套を掴み震えだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る