第6話

 数秒間は応答しなかったが、ボロボロ外套にフードを深く被った少女がゆっくりと歩きながら姿を現れだした。


 少女? なんで森の中に?


 「──けて」


 え? 今なんて?


 「たす、け······て」


 辛うじて聞き取れるほどに小さい声で発すると少女は、前に倒れ込んだ。


 「ちょ⁉ 君、大丈夫か! ッ⁉」


 ムクロは慌てて駆け寄ると少女は呼吸が荒く背中には焼けただれた火傷があった。


 酷い火傷、まさかこの状態で森の中をさまよっていたのか、なるほどセンが言ってた「弱々しい」ってのは、火傷で衰弱していたってことか、そんなことより生きてるよな?


 ムクロは少女の手首の脈を触れると微かに脈はあった。


 脈はある、これだった助けられる。


 ムクロは少女の治療へと取り掛かり【収納の指輪ストレージリング】から小瓶を取り出した。


 「マイマスター一体何を?」


 「この子を助ける。問題ないよな?」


 「私はマイマスターの決定に従うだけです。もしもの時は任せてください」


 「ありがとう。助かるよ」


 【万能回復薬エリクサー】。これを使えばHPだけでなく、SP、状態異常も全快できるが、これ結構高いからあんまり使いたくはないけど······出し惜しみしている場合じゃないな。


 ムクロは少女の背中に【万能回復薬】をかけると焼けただれた背中が治っていき少女の呼吸も落ち着いてきた。


「よし、これで大丈夫なはず」


 ムクロは少女を抱き上げると偵察に行っていたクロとノワールが戻って来た。


 「主君しゅくん、ただいま戻りましたって、どうしたんですかその子⁉」


 「主殿あるじどの、イッタイナニガアッタノデスカ?」


 「それはあとで話。クロ、すまないがこっちに来て伏せてくれないか」


 「エッ? 承知シマシタ」


 クロは近づきムクロの傍に伏せた。


 「コウデヨロシイデスカ?」


 「それでいい、そのまま動くなよ」


 ムクロは少女を伏せたクロに寄りかからせた。


 「これでよし」


 「主君、この子はいったい?」


 「俺もよくわからないだけど、この子の背中には酷い火傷があったからアイテムで治療をした」


 「こんな子がどうしてこんな森の中に?」


 「そればっかりはこの子に聞いて見ないとわからない」


 ムクロは少女の方を見ると、少女は落ち着いた表情で眠っていた。


 「とにかく、今は寝かせてあげよういずれ目を覚ます······ところでノワールはクロと一緒に探索に行っていたんだってね、何か収穫はあったか?」


「はい、ではこれより報告を致します」


 ノワールは探索の報告を始めた。


 「私は上空から半径10キロ圏内を探索しましたが、辺りは森が続き所々に開けた場所がありましたが、少なくとも人の気配はありませんでした」


 「我モ地上カラ、探索シマシタガ小型ノモンスターガイル程度デシタ」


 モンスター······やっぱりこの異世界にもいるのか。


 「クロ、その小型のモンスターの強さは問題ないか?」


 「ハイ、我ノ姿ヲ見タダケデ逃ゲダシタノデ、恐ラクランクハ下級程度ダト思イマス」


 「下級なら······問題ないか、ありがとう。クロ、ノワール」


 「いえ、私たちは主君の従魔として当然のことです」

 

 「それでも助かるよ、指示があるまで休んでおいて」

 

 「了解しました」


 「さてと、後はこの子の目が覚めるのを待つだけだが」

 

 あの子の背中に負った火傷が人為的なのかはわからないが······只事じゃないのは確かだな。

 

 ◆◆◆

 

 「まだ見つからないのか!」


 男は跪いている兵士を蹴り上げ何度も踏みつけた。


 「申し訳······ございません。我々も全力を持って······捜索していますが──」


 「クソが! いったいどこ行きあがった!」


 あの魔法を喰らって仮に生きてたとして、そう遠くには行けないと踏んでいたが······早く見つけ出さないとあの方々が動いてしまう。


 男が苛立っていると男の右の手首に着けているブレスレットの宝石が光りだした。


 「【通信結晶】が光りだした?······まさか⁉」


 男は恐る恐る宝石に触れた。


 『やっほー久しぶり!』

 

 「その声は⁉ リュド様!」


 名前を聞いた周りの兵士たちも驚きだした。


 『3日ぶりくらいかなー? ところで例の娘は捕らえられたかな? 当然、捕らえてるよね? 優秀なフィルデル王国の兵士であれば』


 「そ、そのこと、なんですが、実は見失ってしまって」


 『······は?』


 「で、ですが! 我々も全力を持って見つけだ──」


 『冗談だろ、お前だってわかってるだろ、あの娘が帝国領に入れば簡単には手が出せないことは?』


 「重々承知であります。ですから我々に一度だけチャンスを」


 『······実を言うと、今はそっちに向かっているんだよ。であるこの俺が』


 「リュド様が直々に⁉」


 『それほどに王様もお怒りってことだよ。だからお前たちには俺が来る前に娘を捕まえろ、捕まえられなかったら······言われなくても分かっているよな』


 「りょ、了解しました」


 『それじゃ、楽しみにしてるよ』


 会話が終わると宝石の光りは消えた。


 「······あのガキがいい気になりやがって······」


 「あの······隊長······我々はこれからどうしたら──」


 一人の兵士が駆け寄って男に話しかけると男は駆け寄ってきた兵士を殴りつけた。


 「決まってんだろ······探せっ! 死に物狂いで探せっ! 絶対近くにいるはずだっ! 死にたくなければ探し出せっ!」


 男は怒り狂って周りの兵士たちに怒鳴り散らすと、兵士たちはどよめきだした。


 「何をぼさっとしているっ! さっさと探せっ!」


 兵士たちは慌てだして探しに行きだした。兵士たちがいなくなると男は近くの木を殴りつけた。


 絶対見つけ出してやる。この俺の命がかかっているんだからな。

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