間違いは成功のもとではない
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1
高二の冬、
俺は馬鹿な奴だなと心底思った。
今日、俺は蒲池亜希の告別式に来ている。
多少縁があったのと、あいつの周りの人間はどんな風に蒲池亜希の死を捉えているのがが気になり、いざ告別式に足を運ぶと、予想してたよりも気分が悪くなった。
咽び泣いているのは蒲池の友人を自負しているであろう女男共、蒲池亜希の理解者としてそいつらに慰みと感謝の言葉を述べる両親親戚共。誰もが蒲池亜希の死を悲しみ、何が原因だったのか、何がいけなかったのか、蒲池亜希は何を思い悩んでいたのかを互いに問い合っていた。
ただし、三人寄れば文殊の知恵という言葉を否定するかのごとく、三人以上集まっているくせに奴らは見当違いなことばかり言っていた。
ただ、一つだけ当たっていることがあった。
優等生には優等生なりの、できるやつにはできるやつなりの悩みがあるということだ。
こんなふうに心の中で奴らのことを軽蔑しながら嘲っているが、実のところ俺は蒲池亜希とは大した仲では無い。ただ、色々な要素が上手く噛み合って、あの女の内心に触れる機会があっただけに過ぎない、限りなく他人に近い知り合いでしかなかった。
最初に蒲池亜希と会話したのは、二年の図書委員として最初の当番の日だった。
たまたま本の趣味が同じでそれがきっかけで話すようになった、いや正確には向こうが話しかけてくるようになったと言うべきか。
「その人の本は私も大好きでよく読むんだ!まさかその人の本が好きな人に会えるなんて思ってもみなかったよ。その、凄く有名って訳じゃないからさ」
「あー確しかに、皆知っている著名作家って訳でないね、書き方も独特だし」
「うんうん、けどその独特な表現とかが私は好きなんだ」
「俺もだ」
俺は適当に相槌やら本についての感想やらを答えはしていたが、基本的には向こうが会話の主導権、とう言うか大抵向こうが喋り続けていて適度に返事をしているだけであった。
ただ、好きな作家やその人の本について話している時の蒲池亜希は普段とは大きく異なっていて、普段の周りからの期待に期待以上に答えつつも、いつも冷静で大人びた蒲池亜希ではなく、長めの黒髪を揺らしながら好きな表現等について熱弁する姿は、同年代なんだと思わせる雰囲気と普段は感じることのできない熱を感じることができた。
*
「
「……そうだな、どれもいいが一番を決めるとしたら処女作かな。一番濃くこの作者らしさが出てて好きだな」
*
「新作読んだ?今までと雰囲気が違くて新鮮味がありつつも作者らしさが出ててすごく良かったと思わない?」
「ああ読んだ。今までコミカルなものばかりだったのにホラーテイストできたのは意外だったけど蒲池さんの言うとうりで俺もすごく読んでて楽しかったよ」
*
「見てこれ、私の唯一の宝物。サイン入り特装本。すごいでしょ?」
「すごいな……デビュー一周年時の特別版のやつだろ?発行数量が相当少なくて持ってる人はひと握りだって言われてるけど」
「そう!これを手に入れる為に人生で初めて自分の意思で遠出かつ宿泊までしてのけた大切な一品なの。人に教えたのも、見せたのも鹿島君が初めてなんだ」
「そうか、正直見せて貰えてめちゃくちゃ嬉しい。俺も欲しかったけど流石に当時の財力や行動力的に厳しくて断念したものだったからさ」
*
蒲池との関係は図書委員として被った時間のみ、その時間の間お互い共通の好きな作家について語るという形で四月から変わりなく続いた。
変化があったのは夏休み明けの九月。
教室ではいつもどおりだったが、図書室に来て人が居ないことを確認すると、電源が切れたかのように椅子に倒れるように座ると、机に突っ伏してしまった。
普段と明らかに違う振る舞いに声を掛けるか迷ったが、あくまでも互いの間にあるのは「共通の趣味」だけでしかないと判断し、俺は手元の本に意識を集中させた。
こんなふうに蒲池は何も言わずただ座って、時たま机に突っ伏して当番の日々を過ごしていたが、ある日突然独り言のように喋りだした。
「鹿島君には私はどう見える……?」
蒲池の声は今まで聞いたことがない冷たい無機質な声をしていて、真面目に答えてという圧力を感じさせた。
「どう……てのが抽象的すぎるが、皆に頼られ皆に好かれるなんでもできる万能の天才って感じかな」
「そう……その割に君は、私に何も頼まないし何も求めないよね」
「優等生に頼らなければならないほど苦労は背負ってないし、まずもって何か頼んだり求めたりするような間柄でもないだろ、別に」
「確かに、そうだね。私と君は、この時間のみの関係で、限りなく他人に近い。うん、しっくりきたよ」
この日を境に、蒲池は自分のことについて話し始めた。
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