第十話 令嬢コットンとティラミス王子

 メリウスたち三人がドレス姿で廊下に出るとメイドのクローラが案内する。


 廊下にはいくつもの扉が並びホテルの廊下のようだ。

違いは威容に幅が広い廊下だった。

大男が五人並んでも余裕に通れるだろう。


「クローラさん、さっきと廊下が違いますが」

零が尋ねた。


「零さま、このゲスト専用廊下は一方通行が規則になっています」

「・・・・・・」


 メイドのクローラを先頭に迂回している廊下を進む。

ゲストルームとは明らかに違う大きな扉が左側に現れた。

クローラがその扉の前で立ち止まり、ノックを三回した。


 しばらくして、大きな扉が開き中から秘書のセーラが顔を出す。

セーラはルシアよりやや背が低くショートカットの髪は緑色で瞳も同じ色だった。


「セーラさま、お連れしました」


「わたしはルシアさまの秘書のセーラと申します。

ーーさあさあ、みなさん、中にどうぞ」


 クローラを先頭にメリウスたちは、キョロキョロしながら大きな部屋の中を見渡している。


 部屋の正面に大きな扉が三枚、等間隔で並んでいる。

セーラが左端の扉をノックした。

「ルシアさま、お連れしました」


中からドレス姿の令嬢ルシアが現れた。


 ルシアは薄い水色のドレスを身にまとっている。

写真の青空のように艶やかな色合いにメリウスたちは息を呑む。

ルシアの水色の髪と瞳にドレスが映えていた。


「零さん、メリウスさん、玲子先生、部屋着がお似合いね」

「わたしたちの国では、ドレスと呼びます」


「零さん、この部屋着はディナーに出席するためのユニフォームよ。

ーーじゃあ、食堂に移動しましょう」


 令嬢ルシアの横を秘書のセーラが付き添う。

ルシアの水色のドレスとセーラの緑色の髪にメリウスたちの感覚が麻痺しそうだ。


 廊下は途中で左側に曲がり真っ直ぐ伸びている。

廊下の両側には額に入った絵画が飾らていた。


「ルシアさん、美術館みたいな廊下ね」

「零さん、よくそう言われるわ」


「ルシアさま、食堂棟の建物に到着しました」

秘書のセーラだった。


 セーラが食堂の大きな扉を開けて、令嬢ルシアとメリウスたちを中に招き入れる。


 ルシアがセーラとクローラを見た。

「メリウスさんたちを席にご案内して上げてください」

ーーそのあとはお隣の控えの間で休憩してください」


「ルシアさま、ありがとうございます」

セーラとクローラはメリウスたちを案内すると、令嬢ルシアに会釈して食堂を出て行った。


 メリウスたちがテーブルに着くと令嬢ルシアにそっくりな女性が近づいて来る。

背丈はルシア変わらないがセミロングくらいの髪の毛は紫色をしていて瞳も同じ色だ。


 その女性は、ルシアに向かって荒い口調で問い詰めている。

「この者たちは、どなたなの?ルシア」


「コットン姉さん、わたしのクラスメイトと先生よ」

「わたし、聞いていないわよ」


「だって、今日、赴任して来た先生と転校生よ」

「あなたは、ご自分のお立場がわかってないわね」


「コットン姉さん、そういう言い方はないわよ」

「その呼び方、やめて、令嬢コットンよ」


 メリウスたちが姉妹のやり取りを見ているとランティス王子がタキシード姿でルシアの前に現れた。


「まあまあ、お二人とも、これからディナーですよ。

ーー楽しくしましょう」

ランティス王子が二人を宥めているとランティス王子にそっくりな銀髪の男性が現れる。


「令嬢コットン、ランティス王子の顔を立ててくれないか」

「お兄さん、ありがとうございます。

ーーこちらが、玲子先生、生徒のメリウスと零です」

「わたしはランティス王子の兄で令嬢コットンのフィアンセのティラミス王子と申します」


 令嬢コットンはティラミス王子の言葉を受けて、二人で自分のテーブルに戻って行った。

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