序 - ペルズの妖怪

 一匹の妖怪が王都ペルズを徘徊している。生まれの卑しきものと呼ばれ、リグの教えから拒まれた妖怪が。

 

 彼とその一団は街に火をつけ、リグの図形と偶像を壊して回った。彼はリグの教えと「上に立ちもの」の書籍を徹底的に焼き滅ぼした。彼らが焼いたのは羊皮紙と額縁だけではない。リグと六大女神の像、庶民と奴隷の道徳を説いた小冊子を踏みつけられぬものも彼の一団によって容赦なく焼かれた。人々が生きながらにして焼かれ、街頭と広場は血の海となる。夜の街に硝煙と脂肪の燃える臭いが立ちこめる - 地獄絵図の様な光景だ。


「庶民と奴隷が上に立ちしものに勝利した ー 今、まさにここから歴史の新たな一歩が始まるだろう」

 うおおおお、と民衆が歓声を挙げ、松明を突き上げる。ここに集まったのは菱形、四角、黒四角の記しを手首に刻まれた「生まれの卑しきもの」達だ。その数は優に10000人を超える。有史以来、彼らがこれほどに絶大な権力を握ったことはない。


 大衆、権力、そして国をも亡ぼす熱狂。全てを手にした青年はほくそ笑む。まるでバルとカナを合わせたかの様なおぞましい顔で。

「人民よ、歴史の主役は君たちだー」

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