第45話


『……私、日向直です』 

 知ってたよ。僕はずっと君を探していたのだから。あの日、深く関わるつもりなんてなかったんだ。



『キスやセックスしなきゃ愛とよべないなら、私は愛なんかいらない。そんなもの欲しくない』 

 僕だって、ずっとそう思ってた。何度も会いにくる君を突きはなしたのは、僕たちがお互いに別々の時間を生きていると思ったからなんだよ。



『みんなが『それはほんとの愛の形じゃない』っていったとしても。たとえ納得しなくても。認めてくれなくてもいい』

『君はなにもわかってない。もう、ここへくるな』

 あのとき、そういって悔やんだ。僕には君のまっすぐさが、まぶしすぎたんだ。素直すぎて、見ていて心配で怖かったんだ。



『真は、私のことが好きじゃない? それとも、好きになってくれる。どっち?』 

 でもいつのまにか僕は、君に惹かれてどうしようもなく愛おしくてたまらなくなった。どれほど僕が思いを隠しても、君が僕の目の奥をのぞきこんでくるから。瞳の奥に隠した思いをのぞきこんでくるから。

 


 君は、僕自身を映す鏡で、暗闇の中の僕を照らす光になった。



『パートナーになってください。私は、真のことが好きです』

『好きだよ。君に、出会えてよかったよ』



 このままずっと。 

 ひとりでいいと本気で思ってた。 

 あの日、あのとき、君に手を差しのべた僕は傲慢だった。




 救われたかったのは、僕のほうだったんだ。





 〈了〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋と呼べなくても Cahier(カイエ) @a_sexual

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画