ノートを手に、沢へ向かう
@rabbit090
第1話
微妙に間違っているって、分かっていた。
いつもより嘘つきな人間が、そこにはいた。
「はあ、何してんの?」
「何も、何か文句ある?」
「別にないけど、あのさ。そうやってぐうたらしてるのは良くないよ。分かってるでしょ?」
「…分かんねえよ、黙ってろ。」
家族とは、縁を切りたい。
心底切りたい。
私の家の中はいつも、ぐちゃぐちゃだった。
マジでふざけてんのかってくらい、ごちゃごちゃとしていた。
母は、ワーキングマザーだ。そう言うと聞こえはいいが、これがすごくて、近くの会社で事務をしているだけなのに、深夜まで無休で、会社に残ってなんかしている。意味分かんねえ、お前家事しろって、私が中学生の頃は思ってた。
けど、もう高校生になったから、そんなのどうでも良くなった。
だって、最初は理解していたし、でも、実情は違うらしい。会社の、その会社の新人のお姉さんが言ってた、社長と、母は、できてるって。
できてるから、深夜まで残っているのか、と喉元から言葉が出かかったが、元から、私にそんなことを告げてくる奴が信用に足る奴じゃないと分かっていたので、黙っていた。
で、もう母はいいんだけど、父はいないし(元々いない、誰も存在を知らない。)、兄弟は一人、暴力野郎だけだ。
「おい、多朗。」
「何だよ、お前。ふざけんなよ、兄に呼び捨てって、誰なんだよ。お前、マジで。」
しかし、兄の多朗はちょっと怒ると、すぐ私に対する興味関心を失って、家を出ていく。
家にいるか、ゲームするか、外で暴力をふるうか。
はあ、何なんだ。
しかも、多朗は背が高かったから、不良グループの中でも群を抜いて強かった。
だから、私は学校で恐れられていたし、でも今どきの現代で、不良の妹だなんて恐れるに値しないはずなのに、なぜかみんなは、マンガの中に住んでいるかのような価値観で世界を推し量っていた。
はあ、知らねえ。
でも、私は決めていた。
高校を卒業し、どこにも所属を定めていない兄のことなど放っておいて、逃げることにした。
もちろん、母のこともあるが、最早私は彼女を人間だと思っていなかった。
会社には、アルバイトで入ったはずなのに、正社員になり、いやなる前からなぜか深夜2時とか、そんな時間まで残って、社長と二人で仕事をしていたらしい。意味分かんねえ、で、家のことは何もしない。てか、家ではいつも、切れてるし。
なので、捨てることにしました。
マジで、私は、欠勤、じゃなくて欠席を重ねることによって社会に抵抗を示します。
とか、何とか言ってみたけど、もう、耐えられないってこと。
学校も、家族も、ぐちゃぐちゃだ。
だから私は、バイクに乗って沢へ向かった。
なぜ沢?いや、やっぱ沢なのだ。
逃げてやろう、と思って向かったのは沢。
しかし、私は何となく人がいないけど、でもぼんやりできる場所が欲しかったから沢に向かっただけで、でも。
「ああ、もういいや。」
まさか、死にたくなるなんて思わなかった。
孤独だった、どこに行っても孤独だった。
「選択間違えた。」
こんな精神状況の時に、こんなところ、来るんじゃなかった。
私は意に反しているのかいないのか、分からないけれど水の中にいた。
そこは流れが緩く、私はぼんやりと浮き輪をつけ、水に浮かんでいた。
「………。」
黙って、働かない頭を何とか目覚めさせたいと思って、もがいていた。
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