毒味役のルルシアンは、死に戻る!

まめつぶいちご

プロローグ

「このスープ、毒が入ってます」


 出された豪華な食事の毒味を終えると、私を凝視している執事長のマーゼラルドへ報告した。


「クソ! またか! 一体誰が仕込んでいるのだ!」


 マーゼラルドが黒髪をグシャグシャにして取り乱すのも無理はない。


 君主であるカーネリア姫様の為に作られた食事には、毎回必ずと言っていいほど毒が盛られているからだ。


「マーゼラルド様。こちらの肉料理とパン、それとサラダには毒がありませんでした」


「ルルシアン、毎度の毒味役……感謝する。君がいなければ、カーネリア様は何度死んだ事か……」


「いえ、お役に立てて幸いです」


 私は愛想笑いをして水を飲むと、お腹がぐ〜と鳴った。


 ◇


 私の名前は、ルルシアン・イルヴァーナ。このニールベルト城で、姫であるカーネリア様専属の毒味役をやっている。


 二年もカーネリア様の毒味をしているけど、昔は毒なんて一切入ってなかった。


 でも、ここ最近は毎日毒を食べている事から城内では《毒喰らいのルルシアン》なんて言われたりもしている。


「カーネリア姫様には、こちらの食事をお持ちしろ。必ず三名で運ぶように。配膳中に毒を盛られては敵わん」


「かしこまりました」


 疲れた顔のマーゼラルドがカーネリア姫様専属の側仕えの三人に指示を出すと、彼女らは私の食べていた食事を姫様の元へ持っていってしまった。


「しかし、ルルシアンが毒味役として採用されてから二年か。毒が効かぬとは天性の毒味役だな」


 まぁ毎日高級料理を食べ放題なんて、食べる事が大好きな私には天職だけど、一つ間違いがある。


 毒が効かない。

 みんなそう言うけど、本当違う。


 私は毎回食事の度に、毒で



――私が毒味をする少し前


「ルルシアン。本日、カーネリア姫様にお出しする料理だ。毒味を頼む」


「かしこまりました」


 私の目の前には、この世で最高と言われる料理が並んでいる。


 高レベルのミノタウロスを使ったステーキに、天空島で採れた新鮮な野菜。神秘の泉で作ったスープに、金色粉こんじきこで作られたパン。


 私は大好物の肉料理を少し切り取ると、そっと口へ運ぶ。おいしい……。暖かい肉汁がジュワッと溢れて、口の中ではカーニバルが始まる。


 追い討ちで金色粉こんじきこのパンも少しちぎり頬張る。鼻腔をバターの良い香りが突き抜ける。


 天空のサラダも、噛むたびにシャキシャキと瑞々しい音を立てる。かかっているシーザードレッシングも濃厚で最高。


「おいし……じゃなかった。問題ありません」


 執事長マーゼラルドに凝視される中での食事は、少し食べにくい。


「ではこちらのスープを……」


 カップに口を付け、音を立てずに神秘の泉のスープをそっと飲むと、舌の痺れを感じた。


 あ、これ毒だ。とわかった私は、慌てて肉料理を全部食べる。パンも全部食べる。サラダも全部食べる。


 めちゃくちゃ美味しい!

 もう死んでも良いくらいおいしい!


 マーゼラルドが「お、おい! ルルシアン?! 毒味だけだぞ! 全て喰らってどうする!?」と叫ぶ中、無我夢中で食べる私を止められる人はいない。


 おいしいーー!!


 そのまま毒入りをスープを飲み干すと、私はブハァ!と血を吐いて死んだ。


 そう、死んだのだ。


 その瞬間。私のスキル《運命の歯車デスティニー・ギア》が発動。世界を構築する歯車が逆回転を始め、時間が戻っていく。



――私は、死の起因となった分岐点まで時間を戻すと、二度目となるマーゼラルドのセリフを聞いた。


「ルルシアン。本日カーネリア姫様にお出しする料理だ。毒味を頼む」


「かしこまりました」


 もうどの料理に毒が入っているかわかっているから、天空のサラダとミノタウロスの肉料理を少し頬張り、金色粉パンをかじる。


 以前何もしないで、これは毒ですと進言したら「お前が入れたのか」と疑われた事があった。


 最後に、毒スープに口をつけてすぐに離す。


「このスープ、毒が入ってます」


 そして冒頭へ戻る。


 こうして私は毎日、毒を喰らってはする事で、毒味役として生計を立てている。


 私がこうして毒味役に至るまでは、様々な苦難があった。


 あれは五年ほど前。私がまだ十代の頃――。

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