第13話 綴る世界⑦ 二人の結ばれぬ世界
――僕にも異能があるかもしれない。
それが僕にとってどれほど衝撃的な事実か。しかも、それを教えてくれたのは
書院さんはホントに僕に取って運命の
だけど、今はそれどころじゃない。
書院さんの説明によれば今いる世界は本の中。元の世界に戻るには物語のラストを迎えないといけないらしい。
だけど、ここは『黒鳥の湖』という某有名なバレエの演目を小説にしたもの。その中で僕は主人公の一人ジークに書院さんはライバル役のコニールになっている。僕の方は問題ないけど書院さんは最後に殺されてしまう。
つまり、物語を終わらせるためには書院さんが殺され僕がコデットと結ばれる必要がある。しかしながら、書院さんの異能は物語での出来事を現実のものとしてしまうらしいから、コニールの死は書院さんの死を意味するとのこと。
「途中で能力を解除できないのですね?」
「今まで途中で物語を放棄できたことはありません」
「別の結末を迎えるのではダメなんですか?」
例えば書院さんとロッドバロンとの対決をすっ飛ばし、僕がこのまま湖へ行ってコデットに愛を誓って呪いを解くとか……
「ラストを変更した時、元の世界に戻れる保証がありません」
だったら死んだフリで誤魔化すとか……
「原典と異なり『黒鳥の湖』ではコニールの死が明確に描写されているんです」
だけど、僕の提案に書院さんは首を横に振った。
「ですが、他にどうしようもないでしょう?」
「私の責任ですから、いよいよの時には佐倉さんだけでも元の世界にお戻りください」
それって僕が書院さんを殺すってこと!?
「そんなのできっこありません!」
「ですが他に方法が……」
だけど、僕がいなければ書院さんは他の方法をダメ元で試せたはずなんだ。僕にせいで書院さんが死を選ぶなんて絶対に嫌だ!
「まだ諦めるのは早いと思います」
「下手をすると現実世界に戻れなくなるかもしれないんですよ?」
確かに帰れなくなるのも嫌だけど……
「でも、書院さんだって死にたいわけじゃないでしょ?」
「それは……私だって死にたくはありません」
「だったら!」
「きゃっ!」
僕は気が昂って書院さんの細い両肩を掴んで引き寄せた。
「僕だって元の世界に戻りたい……でも、それ以上に書院さんが死ぬのは嫌です」
「ど、どうして……そこまで……」
「それは……僕が……」
「それは?」
書院さんの瞳が不安に揺らぐのを見て僕は言い淀む。心臓がバクバクと鼓動して爆発しそうだ。
だけど、これから告白する機会はもうこないかもしれない。
だから――
「僕が書院さんを好きだからです」
「えっ……あっ、さ、佐倉さん!?」
最初、意味がわからないと書院さんは目をぱちくりさせていた。けれどしだいに思考が追いついてきたのか顔を真っ赤にして口をあわあわとさせる。
「じょ、冗談はやめてください」
「僕は本気です」
書院さんは身をよじって逃げようとするけど僕は彼女の腕を握り離さない。ここで離したら書院さんと二度と会えない……そんな気がしたんだ。
「僕は書院さん……あなたが好きです」
「あ、あの……私……私は……」
僕の目をまっすぐ見られず書院さんの目はぐるぐると泳ぎまくる。
迷惑だったんだろうか?
いや、たとえそうであっても僕は諦めるつもりはない。
「書院さん、僕は――」
「アッハッハッハ!」
――ビュウ!
その時、笑い声とともに突風が吹き荒れ思わず僕は書院さんから手を離してしまった。
「書院さん!」
その隙に書院さんが何者かの手で奪われ僕は慌てて彼女を取り戻そうとしたが激しい風に阻まれる。
風が収まるとロッド男爵が書院さんを腕に抱き欄干の上に立っていた。
「我が計略に嵌まったな、愚かな王子よ」
「佐倉さん……」
ロッド男爵は高らかに笑い、書院さんは悲しげに僕を見つめる。
「彼女を返せ!」
僕が掴みかかろうとするとロッド男爵はパチンと指を鳴らした。すると突風が僕を襲い前に進むどころか後方へと吹き飛ばされてしまった。
「ふんっ、返すもなにもこの女は俺の娘のコニールだ。愚か者の貴様はコデットと区別もつかずに我が娘に愛を誓ってしまったのだ」
「そんなの関係ない!」
だって僕が好きなのは……
「もはやコデットの呪いは解けることはない」
だけどロッド男爵……いや、ロッドバロンは僕の話を聞く気はないらしく一方的に捲し立てた。
「この俺、悪魔ロッドバロンの呪いによりコデットは永遠に美しい白鳥の姿で湖を
「ごめんなさい……佐倉さん……」
二人はそれだけ言い残すとロッドバロンは梟に書院さんは黒鳥に変身して飛び立つ。その大きな翼を羽ばたかせ書院さんは暗き夜空に溶け消えていった。
僕はただそれを呆然と見送った。
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