第11話 綴る世界⑥ 煌びやかな悪夢の世界
ここはホントに中世ヨーロッパのようで、夜になるとちょっと先も見通せない闇に包まれた。
色んな光に照らされ24時間365日明るい日本とはえらい違いだ。だけど、今いるホールだけはとても光輝いていた。
各テーブルには古風なキャンドルが飾られ、天井を見上げるとシャンデリアが煌びやかな灯りを振り撒き会場を幻想的に彩っている。
その輝きの中で正装やドレスを纏った男女が踊る様子は夢の世界みたいだ。
いや、ホント夢だったら良かったのに……
けっきょく寝て覚めても、この悪夢は醒めることはなかった。そのまま夜になって昨日の王妃からの宣告通り舞踏会が始まり、僕はお妃候補の綺麗な令嬢たちとダンスを踊ったのだ。
ダンスなんて生まれてこのかた経験はなかったけど、不思議と卒なくステップを踏めた。きっと僕の体にはジークの経験も宿っているんだろう。
まあ、それは助かったんだけど……
僕の隣に座る美しい女性を盗み見ながらげんなりした気分になる。
「ジーク、どういうつもりです?」
成人した息子がいるとは思えないほど若々しく美しい王妃が失望のため息を吐いた。ホントは僕とは無縁のはずなんだけど、なんか罪悪感がハンパない。
「この中に僕が選ぶべき女性がいないのです」
と言うか僕はジークじゃないんだから選べないって!
それに昨日コデットがここで書院さんと引き合わせてくれると約束してくれた。それまではなんとか粘らないと。
それにしても、白鳥とコデット……なにか引っかかるワードなんだよなぁ。
どっかで聞いたことがあると思うんだけど……んー、思い出せない。
「ジーク、お前がどれほど嫌がろうと妃を得て王位を継がねばならないのです」
「それは重々承知しております」
「ならば駄々を捏ねていないで彼女たちの中から誰か気に入った者を選びなさい」
「いえ、先ほど申したように相応しい者がおりません……」
住む世界が違うのに結婚相手をここで選んだら日本に帰れないような気がする。
「……この中には」
それに、王座に座る僕を期待の目で見上げる候補の令嬢たちは美人だけど肉食系で恐くて選べないってのもあるけど。
「何を言っているのです。妃候補は全員出席してこの中以外に釣り合う令嬢は……」
「ロッド男爵、並びに御息女コデット様のご入場!」
来た!
王妃の言葉を遮り僕の待ち人がようやく到着しみたいだ。
「まあ! なんて素敵な殿方」
「あれほど美しい令嬢が我が国にいたか?」
登場した男女に会場が大きくどよめく。
いやぁ、その気持ちはよくわかる。
どちらも全身黒尽くめなのだが、とにかく目を引く美男美女。
男は三十半ばくらいの中年だけど、これでもかってくらい格好いい。ふっと微笑むと周囲の女性が老いも若きも赤くなっている。僕の隣でもやり手っぽい王妃が惚けて魅入っているくらいだ。
だいたいなんだよあの足の長さは、反則じゃないか。別に悔しくなんてないからな!
それに僕にとって重要なのは女性の方だ。
こちらも全身黒一色のドレスで、長い髪を盛大に結い上げ覗くうなじはほっそりで真っ白。大きな瞳にくっきりとした目鼻立ちで、昨日会ったコデットそのものだけど僕にはわかる。
間違いなく今度こそ書院
それにしても……
僕は思わず書院さんのドレス姿を上から下にマジマジと観察してしまった。
ドレスの胸元は大きく隆起し、腰回りはキュッと引き締まっている。制服に隠れていて気がつかなかったけど書院さんのスタイルって日本人離れしてないか?
うっ、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い……すごく可愛い。
いかん語彙が死ぬ。
「あ、あの?」
「えっ?」
気づけば僕はふらふらと書院さんの前まで歩み寄っていて、彼女はそんな僕を戸惑いながら見上げていた。
「こ、これは失礼しました」
「い、いえ……」
「よ、よろしければ一曲お、踊っていただけないでしょうか?」
うわっ、やば、声が上ずっちゃった。
どうして僕はこうも締まらないんだ。
だけど、目の前で書院さんが頬を赤くしているのを見てると、いやが上にも期待してしまう。
「は、はい……喜んで」
恥ずかしそうに消え入りそうな声で書院さんは承諾し、差し出した僕の手を取った。
ああ、もう全てがどうでもいい。
ここがどこなのか、ジークと僕のこととか、白鳥とコデットについてとか、色んな謎が渦巻いていた僕の頭の中はドレス姿の書院さんで埋め尽くされた。
僕の手に重ねられた柔らかい書院さんの手、腰に回した腕に感じられる書院さんの華奢な腰、密着した書院さんから漂う甘い香り、書院さんの体温、鼓動、息づかい……その全てが僕を舞い上がらせた。
このままずっと踊っていたい。
そんな願望とも欲望ともつかぬ願いにくらっと傾きそうだったけど、このままではダメなんだ。ちゃんと彼女に聞かないといけない。
僕は彼女をリードしながら周囲に聞こえないように尋ねた。
「書院紡子さん……ですよね?」
その問いかけに彼女は大きな瞳がさらに大きく見開いた。
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