第9話 綴る世界⑤ 同じ顔のいる世界
「?」
ドレス姿の書院さんは小首を傾げ、周りの侍女たちが突然現れた僕に警戒する。
「
僕が問うと書院さんは不思議そうな表情のまま今度は逆側にコテンと首を傾げたけど……くっ可愛い。
「申し訳ございませんが人違いではありませんか?」
「そ、そんなはずは……」
だって、どこからどう見ても書院紡子さんだ。僕はさらに彼女に近寄ったが、それを周囲の侍女たちが阻んだ。
「無礼者!」
「それ以上近寄るな!」
「ちょ、ちょっと待って。僕は別に怪しい者じゃないよ」
敵意むき出しの侍女たちに僕は慌てた。
「何を白々しい」
「先ほど私たちを射殺そうとしたくせに」
「そんなことするわけないでしょ!?」
射殺すなんて物騒な。
「ではその手に持つ弓は何です?」
あっ、王妃から貰った弓を持ったままだった。
「い、いや、これは違くて……」
「何をぬけぬけと」
「私たちが湖で泳いでいるところをつけ狙っていたでしょう」
「あなたたち落ち着きなさい」
書院さんに似た女性が侍女たちを抑えて前に出てきた。
「姫様お下がりください」
「危のうございます」
「大丈夫よ、よく見なさい。この方は弓を持っていても矢は所持していないでしょう」
確かに今の僕は弓しか持ってない。
ほっ、助かった容疑は晴れたよね。
「くすくす、そんな立派な弓をお持ちなのに矢を忘れるなんて」
か、可愛い……
顔は書院さんそのものだけど、屈託なく笑う顔は初めて見た。綺麗な女性だけど笑うとこんなに可愛いんだ。
「私の名前はコデットと申します」
ひとしきり笑うと女性はドレスの裾を広げて一礼した。
コデット?
白鳥とコデット……なんだかどこかで聞いたような?
喉元まで出かかった既視感になんだかモヤモヤさせられたけど、どうにも思い出せない。
「僕はえーと……佐、いえ、ジークと申します」
迷ったけどジークでとりあえず名乗っておいた方がいいような気がした。
「ジーク?……もしかして、この国の王子殿下であられましたか?」
「え、あ、う、うん、まあ、そうかな?」
僕自身にその自覚はないんだけどね。だけど周りが僕をジークという王子と勘違いしているし今はそういうことにしておこう。
「もしかして私に似たショイン様とはジーク様の恋人なのですか?」
「こ、恋人ぉ!?」
書院さんが僕の……いや、そうなら嬉しい……かも?
「ふふ、そのご様子ですと、お付き合いはされていないけれども想いは寄せていらっしゃるのですね」
「あ、いや、その……」
完全にバレバレで、それが書院さんと同じ顔のコデットさんに指摘されたもんだから僕はもう恥ずかしさにアワアワしてしまった。
「ジーク様のおっしゃる私に似たショイン様という方に実は心当たりがあります」
「えっ、ホントに!?」
「はい、名前は違うのですが、恐らくあの方ではないかと」
コデットさんはにっこり微笑んで僕の耳元で囁いた。
「その方との縁を結んで差し上げましょうか?」
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