第14話 …………それとも、私にしますか?

「陽向はしばらくは、お家へ帰れないかな?」


夕食を終え、陽菜の部屋へ向かい。

途中、歩きながら。


「そうだな…………………………………」


吉羽さんからの報告では裏口に火を放たれたとのことで。

訳あって吉羽さんに我が家の鍵を預けてあるんだが、怪しい集団に監視されているのに気づいた彼がわざとらしく家に入り二階の灯りを付けたところで玄関を物理的に塞がれて、裏口に灯油の様なものを撒いた上で火を着けられたらしい。

裏口だったこともあり、表通りからも全く見えなかったようで通報されなかったから犯人全員問題なく確保出来たようだ。

玄関を物理的に塞いだくらいでは、この広さを考えれば逃げ場はいくらでもあると想像すら出来なかったようで。

祖山家の方は、同じく裏口に灯油の様なものを撒こうとした所で犯人達を確保したようだ。

見張りも含めて20人近くいたそうだから、ホントに何を考えているのやら。


「じゃぁさ、しばらくは一緒に寝られるね!」


「去年の夏休み以来だな?」


「あの時以来だね。」


「………………………………そうだな。」


部屋へ入り、陽菜と二人、ベッドに並んで腰掛ける。

元は家族で来た客用の部屋を陽菜の自室にしているので、今掛けているダブルサイズのベッドを置いても広々としていて余裕は十分にある。


「ん〜、夕飯も無事終わったし、次はお風呂にしますか?それとも、私にしますか?」


足をぶらつかせながらの、陽菜からの問い掛け。

あれで、無事なのかよ!

まだベッドに座った状態だと、足が床に付かないんだな。この一年近くで胸のサイズ以外は全く成長してないのかよ?

風呂も旧式な設備だけどかなり広い物が同室内にあるので、入ろうと思えばすぐにでも一緒に入れるんだが。


『…………それとも、私にしますか?』か。

まあ、男なら一度は言われてみたいセリフの一つだな。

何処で覚えたのやら。


「両方、一緒で頼む。」


「うふふっ、その前に陽向にお願いがあるんだけど。」


その前にって事は、両方オッケーなのかよ!

本気か?本気なのか!


「お前、その笑顔、他の男には絶対に見せるなよ?誤解されるぞ!」


「じゃ、陽向になら良いんだよね!」


「………………………………あぁ、良いぞ。んで、お願いって何だ。何でも聞いてやるぞ?」


「あのね、今日、入学式の間と前後だけで5人に告られたの。」


「………………………………知らなかったんだろうな。知らないって、怖いな?」


「そうよね、知らなかったんだろうね。」


コイツの正体を知っていれば、告ってくることは、まず無いだろうからな。


「終いには、アイツらにマネージャーにならないかと無理矢理勧誘されて拉致されて、あの状態でしょ?」


「ホントに、知らないって、怖いな。」


知ってれば、まあ知らなくても、こういう怖い人がいるんだと想像さえ出来ていればな。


犯罪者は一度でも成功すると、失敗した時のことを想像できないんだろうな。

結果、失敗して、もう、『戻って来れない』んだからな。


「で、お願いなんだけど、しばらくの間、陽向に私の恋人役をやってほしいのよ。」

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