第3話 信じられないこと

 その日私は、学校から帰った後、近くの公園で遊んでいた。

 こういう時は、どこからか三島がやって来てイジワルすることも多いけど、この前ユウくんに叱られて以来、大人しくなっている。

 おかげで、最近は平和。


 だけどそこに、急にお母さんやって来た。


(今の時間はお店で働いているはずなのに、どうしたんだろう?)


 駆け寄ってきたお母さんの顔は、ビックリするくらい真っ青。それを見て、なんだか嫌な予感がした。

 そして、震える声でこう言われた。


「藍、よく聞いて。ユウくん、亡くなったんだって」

「えっ──?」


 亡くなったって、どういうこと?

 最初、その言葉の意味が分からなかった。

 なのに聞いたとたん、心臓がドクドクと嫌な音を立てはじめる。


「学校の階段から落ちて、頭を強く打ったって……」


 お母さんが、何があったのか話してくれる。ユウくんがどうして亡くなったのか、教えてくれる。

 だけど私には聞こえなかった。聞きたくなかった。


「やっ──!」


 耳を押さえてうずくまる。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 ユウくんが亡くなったなんて、そんなことあるわけない!











 ユウくん家で、お葬式がある。そうお母さんは言ってた。

 私も、一緒に行こうって言われた。


 だけど私は行かなかった。

 お母さんの用意した服に着替えはしたけど、それから家を飛び出した。


 さっきまでいた公園の隅で、誰にも見られないように、声を殺して泣いていた。


(行きたくない。ユウくんのお葬式なんて、行きたくない)


 最後にお別れをしなきゃって、お母さんだけでなく、お父さんもそう言ってた。

 けど私は、それでも行きたくなかった。


 だって行ったら、本当にユウくんが亡くなったんだって、認めるしかなくなるから。


(そんなの、嫌だよ……)


 泣いていると、ユウくんとの思い出がどんどん蘇ってくる。


 いつもそばにいてくれた。楽しい時は一緒に笑って、困っている時は助けてくれた。

 あの子はピュアピュアの歌を弾いてくれるって約束してくれた。

 だけどそれも、聞くことはできなくなった。


 涙が、ますます溢れてくる。


 その時、ふと背中に人の気配を感じた。


 お父さんかお母さんが探しに来たの?

 だけど振り返った時、そこにいたのはどっちでも無かった。


「……三島?」


 そこにいたのは三島だった。

 走ってここまで来たみたいで、息を切らせながら肩を激しく上下に揺らしていた。


「お前、こんなところで何やってるんだよ」


 大きく息を吸い込んで、三島が言う。

 そう言えば、優斗の葬儀でお経をあげるのは、お坊さんをやってる三島のお父さんだって聞いた気がする。


「何でアイツのところに行ってやらねえんだよ」


 もう一度、三島が言う。


 だけど私は、何も答えず、またうずくまる。

 何も話したくなかった。


 三島もそれ以上は何も言わなくて、ただ黙って私を見てた。


 どれくらいの間そうしていただろう。

 だけど、ふとあることを思い出す。

 それから、ようやくうつむいていた顔を上げて、三島を見る。

 必死で涙を堪えながら、言う。


「ねえ三島、三島って幽霊が見えるんでしょ。どんな幽霊とだって、会うことができるんでしょ」

「えっ?」


 驚いたように声を上げる三島に向かって、さらに言う。


「お願い。ユウくんに会わせて!」

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