第18話
リーナは目をこすりながら、廊下を走っていた。自分の意思では止めることは全くできなかった。レイン様の気に触ることでもしてしまったのか、不安になるばかりだった。レイン様がいつもと様子が違うことはもちろん分かっていたが、悲しみの方が勝ってしまった。エルザ様と廊下を歩いているお姉様。リーナは胸の中に飛び込んだ。
「お姉様ぁぁ。レイン様に嫌われてしまいました。わぁ……うわぁぁぁぁぁ」
「どうしたの?リーナ。レイン様はそんなことを言う人ではないわ。どう言う状況でそうなったのか教えてくれる?」
「レインのところに行ってくる」
「ダメです!カイル様への報告が先です!」
「は〜い」
お姉様は慌てるエルザ様を止めると、リーナを方に顔を向けて話を聞いてくれた。
「朝、部屋に入ってみたら汗だくのレイン様がいて、服を着替えさせようと近づいた時に、近づくな。部屋から出たくない。って言われてしまいました」
「いつもとは様子は違っていたの?」
「全く違いました。すごく怯えているように見えました」
「怯えている?一体、どう言うことなの?」
「私にも分かりません」
「なるほど。状況はなんとなく分かったわ。なんらかの事情があるだけで、リーナは嫌われてないはずよ」
「……本当ですか?」
「ええ。だからもう泣かないの」
「……はい」
お姉様はリーナを優しく包み込む。リーナはお姉様の心臓の鼓動を聞いて、安心しきっている顔になった。お姉様の胸の中はとても温かかった。リーナたちはカイル様に状況を説明する為に食堂へと向かった。
「レインはどうした?」
カイル様はリーナたちを見た後に質問する。
「理由は分かりませんが、リーナから話を聞いた限りでは、いつもと様子がおかしかったようです。そして今、部屋に引きこもってしまっています」
「どうしたのかしら?」
お姉様の話を聞いて、レイナ様は心配そうな表情になっている。カイル様も同様な表情をしているみたいだ。
「エルザ。何か私たちに隠していることはないか?」
みんなが心配そうな表情をする中でエルザ様だけは何か心当たりがあるのか、落ち着きがない様子だった。隠し事をするのが下手みたいだ。カイル様がそんな様子のエルザを見逃すことはかなかった。リーナはみんなに気づかれないようにクスリと笑ってしまった。
「誘拐犯リーダーのジルって人がね。エルザを人質に取ったの。それを助ける為にレインがね。魔法を使ったの。でもね、怒っていたレインは誘拐犯たちを全員殺してしまったの。それが原因でレインがおかしくなっちゃった。最初は全員の命を救おうとしていたんだよ。エルザがもっと強ければこんなことは起きなかったの……だからね、だからね。レインを責めないで……」
「大事な娘の命を救ってくれたんだ。責めるものか。辛い記憶を思い出されてしまって、ごめんな」
「……うん」
必死にレイン様を守ろうとするエルザ様の姿にリーナの目頭は熱くなっていた。カイル様はそんなエルザ様を優しく包み込んでいた。食堂にいる全ての人がそんな二人の姿を温かく見守っていた。
「この件に関して、黒幕がいる気がするんだ。エルザ、誘拐犯たちは何か言っていなかったか?」
「レインの実の母親が依頼したと言っていました」
「分かった。ワイズ。すぐに裏をとってガーネル男爵とその夫人を捕まえてくれ!私の息子と娘に手を出したんだ。覚悟はできてるはずだ」
「承知いたしました」
ワイズ様はそう言うと食堂から姿を消した。
「エルザ、他にもレインがどんな魔法を使ったのか教えてくれるか?」
「うん」
エルザ様はカイル様の膝の上に座って、レイン様がどんな魔法を使ったのか話し始めた。カイル様がエルザ様を膝の上に乗せる姿は久しぶりに見た。エルザ様は嬉しそうにしていた。リーナはそんな姿を見て、微笑ましく思う。
「まずはね。空間魔法、次元斬り。って言うは魔を使っていたんだよ。見えない斬撃で拘束を解いていた」
「レインがそんな魔法を使っていたのね。カイル。凄いわね」
「そうだな。さすがは私たちの息子だ」
「他にもね。パパ様と同じ身長の誘拐犯を殴りだけで、吹っ飛ばしていた」
「まあ、それは凄いわね」
「それは身体強化魔法だ。ワイズも使えるぞ」
「そうなの?凄い」
カイル様とレイナ様、そしてエルザ様は楽しそうに話している。リーナたちは微笑みながら見守っていた。
「レインには今は時間が必要だ。私たちは立ち直ることを信じて見守るしかない」
「そうね。待ちましょう」
カイル様とレイナ様はレインが立ち直ると信じているようだ。リーナがレイン様と同じ立場なら立ち直ることはできないかもしれない。リーナもレイン様が立ち直ることを信じている。
「リーナ。食事だけはレインの部屋に届けてあげなさい」
「はいっ。かしこまりました」
カイル様はリーナに指示をすると食堂から出ていった。レイナ様も後に続く。
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