古代精霊に魅入られた精霊魔導士

時雨トキ

第一章 それぞれの家族の形

プロローグ

第1話

 朝、学校に登校して授業が始まる前の放課の時間。教室ではそれぞれ仲のいい友達と会話する人や自分の席で黙々とスマホを触る人。その他にも本を読んでいる人やスマホを使って休日の約束をする人など各々で楽しんでいるようだ。


「おはよー。仁人ぉ」


 強烈な一撃が僕の右肩を襲う。僕は痛すぎて顔を歪めてしまう。リーダー格の男子生徒に続いて、次々に挨拶代わりに僕の右肩を殴る五人の取り巻きの男子生徒たち。朝から右肩を上げることができなくなってしまった。周りの生徒は関わりたくなさそうに見て見ぬふりをしている。


「……」


僕はただ痛みに耐えていた。リーダー格の男子生徒。名前は神宮寺悠斗。悠斗は理事長の息子で歯向かってしまうと学校にいられなくなってしまう。共働きをして僕のためにお金を稼いでくれる両親には迷惑をかけたくなかった。

 あの時、僕の前にいじめられていた男子生徒を庇わなければこんなことにはなっていなかった……。

 高校に入学して一ヶ月が経った頃、みんなが下校した後の静まり返った教室で、同級生の男の子が悠斗を含む取り巻きにお金をたかられている場面を偶然目撃してしまう。その日はたまたま学校に教科書を忘れて取りに戻っていた。悠斗たちに脅されて、恐怖のどん底にいる男子生徒。名前を野田隼人と言う。体が震えている隼人を見て僕の体は勝手に動いていた。


「辞めてあげろよ!大人数で、一人をいじめて恥ずかしいと思わないのか!」

「……ちっ!うるせぇなぁ!お前ら行くぞ!」


 悠斗たちはそう吐き捨てるとのその場を後にした。


「大丈夫?」

「うん……ありがとう」


 隼人は僕に微笑みながら言う。しかし、次の日から隼人に対するいじめは日に日にエスカレートしていき、暴力を振るったり、あらぬ噂を流されて孤立させたり、どれもメンタルに来ることばかりだ。いつの間にか隼人は不登校になり、最終的には転校して僕の前から姿を消した。いじめる相手がいなかなって、暇になった悠斗たちは僕を次の標的にしたのだ。そして一年が経過し、今も続いている。


「仁人ぉ。こいつらがさぁ。お金がなくて困ってるみたいだから貸してくれねぇ?今度返すからさぁー!」

「仁人。困ってるんだ。貸してよ」

「もう手持ちがないんだよ……」


 悠斗の鋭い視線。取り巻きたちも同じような視線で僕を見る。僕は体を震わせながら、蚊の鳴くような声で返事を返す。


「はぁぁぁぁ⁉︎今なんて言った⁉︎お前みたいなゴミが活躍できるのはこれくらいだろうガァっ!」


 悠斗は頭に血が上り、取り巻きに僕を拘束させみぞおちを思いっきり殴る。


「ゲホッ、ゲホッ。うぇっ‼︎うっ……うっ……」


 僕は膝をつき、腹を押さえる。朝食べたものが外に出てきてしまいそうな感覚だった。少しだけ息苦しくなる。


キンコーンカンコーン


学校の方が終わりのチャイムが始まる。朝のホームルームが始まるので担任の先生が教室の中に入ってくる。


「悠斗くん!何やってるの?」


 僕が地面にうずくまっているのを見て、担任の女性の先生が悠斗に注意をする。


「黙れ!クソババァ!親父に言いつけるぞ!クビになりたくなければ黙ってろ!」

「ぐっ……」


 女性の先生は悔しそうに歯を食いしばる。悠斗に逆らったことで学校をクビになった先生は数多くいる。その為、何も言えなくなってしまったのだ。悠斗は僕の財布を奪い中から入っている中で一番高い千円札を抜き取って取り巻きと一緒に教室から出て行った。


「ごめんね……力不足で……」


 女性の先生は僕に深く謝罪する。職を失いたくない、関わりたくないの一心で誰も僕を守ってくれやしない。僕のメンタルはかなり疲弊していた。

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