秋人編 第五話
俺が
当時、物辺りのいい少年だった俺も、五年もあんな陽気なじいさんと一緒に居たせいか、気づけば性格も言葉遣いも粗くなっていた。
剣の腕はみるみる上達し、一年立った頃にはかなり竹刀を操れる様になっており、じいさん曰く「覚えがいい」とのことだそうだ。
そして「異能」の方はというと、最初は[暴走]の影響もあり、トラウマでまともに使えることはなかったが、今はそれも克服し、少しずつ我が物にしようとしていた。
....そう言えば、結局どういう能力に変化したのかってのを言っていなかったな。
あの後、俺の能力は「願ったものに形を変える石を出す」だなんて超遠回りな能力ではなく、簡潔に「想像したものを創造する」というまるで駄洒落な、分かりやすい物になっていた。
一見(一聞?)、簡素でわかりやすくて、かつ強力な力に聞こえるが、実際の所は扱いが滅茶苦茶難しく、創造する物の規模に制限がなく、また妥協も効かないので、武器などの小物を創造したいときは、しっかり細かい造形までも想像して創らねばならず、ここらの点だけ見れば、[暴走]もとい、[覚醒]前の、石を介しての創造の方が使い勝手としては良かっただろう。
しかし、そんなことが些細な問題に思えるほどに今の能力は強く、何より強力な点は、やはり、「制限」がないことに限るだろう。
これまでは、それなり大きい物を創るときはそれ相応の質量の石が必要だった。...らしいのだが(感覚で理解っているだけで、使ったことがないからわからない。が、じいさん曰く異能というのは発現したときに、その異能の使い方はすべて頭にインプットされいているらしいので、多分そうなのだろう)[覚醒]してからは、そんなひと手間、デメリットも何もなく、想像して念じるだけでいいのだから。
そんな異能も少しずつ扱えるようになって来ており、今は剣術とのうまい併用方法を考えてきているところである。
...と、言う感じで今はやっていってる。
今の環境は...凄くシアワセだ。
あれだけの人を殺し、街一つを消し去ってしまった俺が、果たして受けていいのだろうか?と疑問を抱いてしまうほどの幸福。
じいさんの話も、飯も、稽古も、何もかもが楽しく、剣術も最初はいい暇つぶしで、名目でしかないと思って居たが、気がつけば没頭し、さらなる強さを求め、技術探求など、楽しくなっていた。
――たまに思うんだ。
街を破壊し、多くの人を殺した俺が、こんなシアワセに暮らしていいのか?と。
しかし、それは違う、と、いつでもじいさんは否定した。
...そのとき、どう慰められたかは正直、覚えてない。
だけど、そう言ってくれたことが俺は兎に角嬉しかった、ということだけ確かに覚えている。
そんな長く続いたシアワセも、いつか、狂い始めた。
蝉が少しずつ五月蝿くなってきた初夏。
俺はいつも通りじいさんに稽古をつけてもらっていた。
道場には木刀がぶつかり合う、かん、かんという音だけが響いており、それ以外の音は外から聞こえる蝉の声だけ。
そんな蝉の音も木刀をかち合わす二人には聞こえておらず、ただ聞こえているのは、相手の呼吸音と足踏みの音だけであった。
はたから見れば静かな様で、しかし当人達にとっては手に汗握る激しい戦い。
そんなかち合いも、片方が片方の木刀を弾き飛ばした事によって終わった。
「ってぇ!」
「へへ、まだまだだなぁ、秋」
「うっせ!!じいさんだって稽古なんだから手加減の一つでもしてくれよ」
「いいか?実戦で手加減してくれる敵なぞ一人もおらん!!あと手加減したら俺が負けちまうだろ!!」
「どう考えても2つ目が一番の理由じゃねぇかよ...」
そう言って俺は吹き飛ばされた木刀を拾う。
「さて、もう一本!!」
「飯の後な。腹減った」
不服だが...時計を見るとすでに短針は午後1時を指しており、丁度飯時を少し過ぎたかな、くらいの時間であった。
そう思うと、これまで忘れていた空腹がどっと押し寄せてきた。
「あー...オーケー」
「あ、そうだ、秋」
満を持して完成した冷麺を(といってもただ茹でただけだが...)勢いよく啜っていると、おもむろにじいさんいに声をかけられた。
「ん?なに?」
「午後、下降りねぇか?」
「...へ?」
と、いうのも、此処、
なので当然、基本的物資は山の恵みに頼りっきりだが、流石にそれだけでは生活がきついというものなので、山で入手できなかったりするものは、山の麓にある大きな街にまでおりて買いに行ったりするのである。
「えいや、いいけど、なんでそんな突然?」
「あん?簡単な話だよ。お前にも街を少し知っておいてほしくてな。だってお前、何だかんだあそこ行ったことないだろ?」
「おいおい、耄碌したかジジイ。一回だけだがあんたに連れてかれた事があるぞ」
「あれ、そうだったか?まぁ、なんにせよ来てもらうが」
有無を言わせない強引さから....いやまぁ、そうでなくてもなんとなく知っては居たが、知ってほしい、だなんてのは建前だろう。どうせ、なんかの予定があるやらなんやらで俺をこき使う魂胆だろう。
――別に断る理由もないし、久々に降りるんだ。息抜きにちょうどいいだろう。
「んじゃ、飯食ったら準備しな」
そういうじいさんに対し、俺は肯定するわけでもなく、ただ勢いよく残りの冷麺を啜ったのだった。
To Be Continued――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます