第13話 城の中心で愛を叫ぶ
城に来てから半月ほど経ったある日。
「シリウス様、愛してます!」
勉強の合間の休憩時間に、シリウス様の執務室に忍び込んで、思いっきり抱きついた。
ドキドキしてくれたかなとシリウス様の顔を見上げると、まるで何事もなかったかのように仕事を続けていた。
「仕事中はそなたを構えん。ピーターにでも遊んでもらうといい」
「ピーターはどうでもいいです。私はシリウス様に愛を伝えたいんです。今日も素敵です、シリウス様」
「そうか。今は仕事中だから出直すといい」
あまりにも素っ気ない。
私がにこにこしながら見つめてみても、眉一つ動かさない。
そしてすぐに私を探しに来たリアに、執務室から引っ張り出されてしまった。
「クレア様。部屋を抜け出して、何をなさっているのですか」
「休憩時間は好きに過ごしていいと言っていたじゃないですか」
「シリウス様の邪魔をしていいとは言っていません」
リアは私を椅子に座らせると、仁王立ちで見下ろしてきた。
お説教モードだ。
「クレア様が図書館に行く時間が惜しいと言うから、部屋で勉強をしていたのに。こんなことのためだったなんて」
リアが怒っている通り、図書館からシリウス様の執務室へ行っていたら休憩時間が終わってしまうから、今日は自室で勉強をさせてもらっていたのだ。
「そもそも、どうして急に愛を叫びに行ったのですか。昨日までそんな素振りはなかったのに。唐突過ぎてリアは混乱しています」
「……愛とは突然に生まれるものです。そして抑えきれないものです」
「知ったようなことを言わないでください」
「ごめんなさい。知ったかぶりました」
リアはぷんぷんしていたが、これと言った実害はなく執務室に行ってシリウス様に抱きついただけなので、これ以上のお説教はされなかった。
ただしシリウス様の仕事を邪魔した罰なのか、いつもよりも多めの宿題を出されてしまった。
「……で、構ってほしいのだったか」
「はい!」
夕食を食べた後、シリウス様が私に話を切り出してくれた。優しい。
「余に何をしてほしいのだ?」
「えっと……では、シリウス様のことを教えてください」
「余は自分語りはあまり得意ではないのだが。何が聞きたい?」
「それでは、シリウス様の好みのタイプが知りたいです」
シリウス様は飲んでいたコーヒーで盛大にむせた。
「可愛い系と綺麗系ならどっちが好みですか?」
「幼児に恋バナはまだ早い。そういう話は大人になってからするといい」
「私は幼児じゃありません!」
シリウス様は困ったような顔で自身の頬をかいてから、諭すように告げた。
「そなたには、恋の前に学ぶべきことがたくさんあるだろう」
「また勉強しろって話ですか?」
「その通りだ。勉強は世界を広げてくれる」
質問をはぐらかされて拗ねそうになったところで、ハッとした。
「ここまで勉強勉強言うなんて、もしかしてシリウス様は、頭の良い優等生タイプが好みなのではありませんか!?」
「はあ?」
きっとそうだ。そうに違いない。
シリウス様が認める大人とは、きっと知性溢れる女性のことだ。
だから頭の悪い私は、シリウス様には幼児にしか見えないのだ。
「私、頑張りますね! 知性溢れる大人の女性になってシリウス様を誘惑します!」
「余の話、きちんと通じているか?」
「この恋の方程式を解いてみて。とか言っちゃう人が、シリウス様の好みなんですよね!」
「一言も言っていないが?」
「早く知性溢れる大人の女性になれるように頑張りますね!」
目を輝かせながら握りこぶしを作る私に、シリウス様は若干引いている様子だった。
* * *
「今日はどうされたのですか、クレア様」
シャワールームで私のことを洗いながら、リアが溜息交じりに質問をした。
心なしか私を洗う手つきに疲れを感じる。
「どうって?」
「ずっと空回っているではありませんか」
リアの良いところは正直なところで、悪いところも正直なところだ。
「私、空回ってました?」
「シリウス様の引いている顔なんて、リアは初めて見ました」
やっぱりあれ、引いている顔だったのか。
シリウス様は引いている顔も美しいと分かったのは嬉しいが、引かれた事実は悲しい。
「でもシリウス様って、アタックされるのには慣れてるんじゃないですか? カッコイイのですぐ一目惚れされてそうです」
「いくらカッコよくても、シリウス様はほとんど城に引きこもっていますので」
「たまに町に行ってるじゃないですか」
「リアは、シリウス様が他人とまともな会話が出来るとは思えません」
ああ……。
シリウス様の良いところは変わっているところで、悪いところは変わっているところだから。
「シリウス様は変わってますけど、私にとってはヒーローですから。惚れるのは当然ですよ」
「…………クレア様。何か悩みでもあるのですか?」
「いやだなあ。ないですよ、悩みなんて」
私はバスタブのお湯をリアにかけるイタズラをして、この話を終わらせた。
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