第6話消すべき相手
あの後、何事もなく午後の授業を終えた。その間、羽月と会話をすることはなかった。もし、話をしている時に何かを勘づかれたら、この校舎内で暴れる可能性がある。その可能性がある以上、気軽に会話なんて出来るわけがない。
ただ、時間は刻一刻と経過していく。
そして、皆が家へ帰る時間となった。次々と教室から人が出ていく中で、羽月が声をかけてきた。
「ねぇ、もし良かったら、一緒に帰らないかい?」
それは、唐突な誘いだった。このタイミングで声をかけられたら、何かあるのではないかと疑ってしまう。だが、ここで断るのは不自然でしかない。
それならば、俺がする行動は一つ。それは、彼女と一緒に帰ることだ。
彼女が何を考えているのかは知らないが、俺は彼女と共に学校を出た。
それにしても、こうして隣で歩く彼女の顔を見ていると、とても悪の組織のリーダーには見えないんだよな。いや、それを言えば、俺だって同じことなのかもしれない。それに、まだ彼女が【月牙】の九条羽月と決まったわけではない。同名の可能性だってある。
今のところ、彼女が何かをする様子はない。このままの様子ならば、今日は何もせずに帰ることにしよう。
そう思って、目の前の曲がり角を曲がろうとした時、彼女に呼び止められた。
「一緒に来てほしい場所があるんだ」
それだけ言うと、彼女は背を向けて、俺の帰り道とは別の場所へと向かって行った。
今の彼女は、学校の時とは違った雰囲気を纏っている。
それを感じ取った以上、このまま無視するわけにもいかない。面倒ごとになる予感はしつつも、彼女の後を追うしかなかった。
長い距離を歩いて着いた場所は、俺の知らない丘の上。何故、こんな何もないところに連れてきたのか。それを聞くよりも先に、羽月の方から話を始めた。
「どう?キレイでしょ、ここから見える景色は」
「そうだな、この街をこんな場所から眺めるのは初めてだよ。たしかに、キレイな景色だな」
まさか、この街にこんな場所があったとは。
いや、今はそんなことはどうでもいい。ただキレイな景色を見せたいから連れてきたというわけではないだろう。他に何か理由がある筈だ。
彼女は、街の方へと視線を向けている。そんな彼女が話を続けるのを、俺は待つ。
「私はね、このキレイな景色が欲しいの。その為に、【月牙】っていう組織を作ったんだけど、これが上手くいかなくってね。だから、君にウチの組織に入ってほしいと思ったんだけど、どうかい?」
「【月牙】それは、一体どんな組織なんだ?それに、何で今日喋ったばかりの俺なんかを誘うんだよ」
「知らないフリはしなくていい。君が私のことを知っているのと同様に、私も君のことを知っているんだから」
そう言う彼女の様子は淡々としている。
それにしても、いつ俺のことについて知ったんだ。もしかして、最初からなのか。
俺のことについて知っていながら、仲間にしようとしているということは、よほど目的を達成したいのだろう。
それにしても、この街を手に入れたいがために、犯罪組織を結成するなんて、滅茶苦茶な奴だな。
今の彼女の話を聞いていて、いくつか聞きたいことができた。
「お前は、自分の組織が壊滅したことを知っているのか?」
「ええ、君の率いるギルドによってね。でも、そのことは気にしていないわ。だって、君が私の仲間になってくれるなら、組織は何倍にも大きくして建ちなおせるから」
「俺に、犯罪の手伝いをしろっていうのか?」
「そういうことになっちゃうね」
この女は、どこまで知っているんだ。少なくとも、俺やギルドのことについては思っているよりも情報を得ているようだ。
そんな相手に、隠し事をするようなことをしても無意味。
というか、自分と敵対している組織のボスを勧誘するとは、正気の沙汰ではないな。
当然、俺の返答は決まっている。
断りの一択だ。その選択をすることでの、彼女の反応は大体予想ができる。
「そっか、それじゃあ、ここで消さないとね」
「やっぱり、そうなるのかよ」
彼女の目つきと、纏う雰囲気が明らかに変わった。その目と纏う雰囲気には、殺気が漂っている。
彼女が『超越者』であるのは間違いない。だが、何の能力を持っているかは分からない。
分からないのならば、こっちから仕掛ければいいだけだ。
「悪いが、手加減の仕方が分からないんだ【
闇の力で形成した斬撃を、彼女に向けて飛ばした。当たれば、致命傷では済まないだろう。
だが、既に目の前には彼女の姿がない。
すぐさま、周囲を見渡す。それでも、彼女の姿は見つからない。
「君の力は知っているよ。闇を操る力。たしかに強力だ」
彼女の声が聞こえてきた。その声の方向は、前後左右ではなく、上から。
上を見ると、彼女が空中で制止していた。そこまで一瞬で移動したのもそうだが、空中で止まっていられるなんて、何かの能力を使っているとしか考えられない。
しかし、何の能力だ。空間を操る系か?それとも、もっと別の何かなのか?
「それじゃあ、私からも攻撃しようかな」
そう言うと、彼女は人差し指を動かした。何のつもりかと思ったが、横から、この場にある木やベンチが飛んできた。
彼女の攻撃だろう。
とは言え、その程度の攻撃では傷一つ負うことの方が難しい。
俺は自分の周りに、闇で形成した壁を張った。飛んできた物は、その闇に全て飲み込まれていく。
「やっぱり、こんな攻撃じゃダメだよね。さて、どうやって殺そうか」
「その物騒な感じが、君の本心なのか?俺としては、学校の時のように可愛い女性であってほしかったんだけどな」
攻撃を防がれたと言うのに、彼女は余裕な様子。
俺の力はバレているが、彼女の力は分からない。マズいな、この状況は。
どうやら、本気で殺しに行く必要がありそうだ。そうでないと、俺が殺されるかもしれない。
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