第3話幹部たち
事は片付いた。だが、これで終わりではない。一刻も早く、この場を去る必要がある。
動けない風華を背負って、少し離れた場所へと移動した。
そして、思っていた通り、騒ぎを起こした場所に大勢の人が集まり始めている。もし、見られでもしたら、面倒なことになる。
だから、人目につかない場所に隠れる。そうすれば、必ずアイツが来てくれる。
「こちらにいたのですね。騒ぎを聞きつけて、駆けつけてみれば、まさかボスが関わっているとは」
「来ると思っていたよ、
「ボスの為ならば、何時どんな場所であっても駆けつけますよ。それよりも、まさかボスが、あの犯罪者を仕留めてくれるとは思いませんでした」
隠れている俺たちを見つけたのは、【幽谷の影】のメンバーである麗音。彼女が、ギルドの運営の指揮などをしている。
俺としては、彼女がボスになってくれた方が楽なのだが、それを彼女は受け入れない。俺がボスなのは絶対らしい。
「貴女、本当に【幽谷の影】のボスだったのね。いえ、だったのですね。そうとは知らずに、失礼な態度をとって申し訳ありません」
「ボス、この女性は?」
「新しく加入することになった。力は上手く扱えないようだが、鍛えれば強くなると思うよ」
俺の言葉に、麗音は「分かりました」とだけ言ったのに対して、風華は困惑した様子。
彼女が俺に対する印象が変わったのは間違いないだろう。それが、良い方へなのか悪い方へなのかは分からない。
最初に会った時には、彼女をギルドに入れるつもりはなかった。でも気が変わった。俺は彼女のことを気に入り、是非うちのギルドに入ってほしいと思っている。
だが、最後は彼女が選ぶことだ。だから、俺は手を前に差し出した。その意図は、彼女も理解している筈。手を握れば加入する、手を握らなければ加入しない。
この選択で、彼女の人生は大きく変わるだろう。
それでも、彼女の目には迷いがない。
「ふ、不束ものですが、よろしくお願いします」
「ようこそ、ギルド【幽谷の影】へ」
彼女は、優しく俺の手を握った。
こうして、新たに一人仲間が増えた。気が強いわりに力は上手く扱えないけど、誰かの為に命を懸けられる人一倍覚悟がある強い女性が。
これで万事解決とはいかない。なぜなら、あの敵のせいで、俺の部屋がなくなってしまったからだ。ただ、解決方法は既に考えてある。
それは、ここにいる麗音に全てを頼む。それだけで、全て上手くいく。だから、俺は麗音へと頼み込む。
「申し訳ないんだけど、また新しい家を建ててくれないか?」
「またですか?これで何度目ですか。だから何度も、アジトで生活するべきだと言っているのですが、ボスが望むならば、私たちはそれを実行するだけです。ですから、新しい家が出来るまでは、アジトで生活してくださいよ」
あれこれ言いながらも、何とかしてくれるようだ。
そうと決まれば、向かうはアジト。それに、怪我を負っている風華の療養をしなければならない。
怪我を負っている風華は麗音が担ぎ、この場を離れた。
アジトへ向かう道中、麗音から様々な報告を受けた。正直、何の事を話しているのか分からなかったから、とりあえず聞いているふりだけしておく。
唯一分かったのは、今日アジトで幹部会議を行うから、必ず参加してくれということくらいだ。
そんな話をしていると、アジトの前に着いた。
目の前に建つのは、あまりにも周囲に馴染めていない建物。一際大きな建物であるコレが、我らがギルドのアジトである。大きすぎるせいで、目立って仕方ない。そのせいもあって、俺はこの建物を好んではない。
それでも、ギルドのアジトである以上、入らないわけにはいかない。
自動ドアの入り口を通って、建物の中へと入った。
入って早々、十人ほどの人が待ち構えている。
「「お疲れ様です、ボス」」
俺が帰ってくる度に、これを行う。それもあって、俺はこのアジトに極力入らないようにしている。
これでは、組織のボス感が強くなってしまう。
とはいえ、組織のボスである以上、思っていることを表には出さない。それっぽい振舞いをするようにしている。
怪我を負っている風華は、部下に預け、俺と麗音は幹部会議が行われる場所へと向かった。場所は、この建物の三十三階層。
そこには一つの部屋しかなく、エレベーターの扉が開くと、すぐに大きな扉が待っている。この扉を開けるのが、一番気が重くなることかもしれない。
理由は至ってシンプルで、中にいる幹部の奴等が変人ばかりだからだ。隣にいる麗音も幹部ではあるが、彼女だけが唯一まともな人間だと言える。
そんな俺の気をお構いなしにして、麗音が扉を開けた。
中にいたのは五人。
一人目が
「あっ、ボス。ねぇねぇ、いつになったら私と結婚してくれるの?」
そして二人目が
「馬鹿が。ボスがお前みたいな女と結婚するわけがないだろ。ボス、こんな女の話は無視して是非とも私が作った料理を食べてください」
次に三人目が
「二人とも静かにせんか、ボスの前だぞ」
四人目が御神ネオ。
「・・・・・・・・・」
最後に五人目がクレア・オベール。
「おいネオ、ボスのが来たんだから早く起きろ。そんなことよりも、今日だけで二人の犯罪者を仕留めたよ。ボス褒めて」
こんな感じでクセの強い奴ばかり。
実力があるのはたしかだ。
一人でも相手が大変なのに、幹部会議だと必ず五人が集まってしまう。そのせいで、毎回どこかのタイミングで荒れる。
今回も断言できる。
確実に、今回の幹部会議も荒れると。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます