ボスは普通を望む

@purur02

第1話超越者

 自分の部屋の椅子に座った。これから、学校から出された宿題を行うところだ。

 自分で言うのもなんだが、俺は真面目な方だ。今もこうして、真面目に宿題をしようとしている。

 宿題をする前に、外の空気を吸おうと、正面にある窓を開けた。窓からは、穏やかな風が吹き込んでくる。外の景色は、いつもと変わり映えのない景色。


「平和だな・・・・・・」

 

 ここからの景色だけを見れば、平和と感じるのが普通だろう。当然、平和であることに越したことはない。ただ、ここではない何処かで、事件や事故が起き続けているという現実がある。

 特に、犯罪件数は、止まることをしらない。それも全ては、『超越者』の存在だ。

 『超越者』とは、その言葉が表す通り、人間を超越した者たちのこと。そんな者たちが、この世界には数多く存在している。ただ、超越とは言っても、人に危害を加える力や、大した力がなく普通の人間と変わりないなど様々である。

 とはいえ、普通に暮らしていて、そんな危ない奴らと関わる確率は極めて低い。だからこそ、こうして出来るだけ普通の暮らしに近づけようとしている。

 だが、俺は知っている。トラブルというものは、自分から離れても、自然と寄ってくるものだと。

 今だってそうだ。

 外を眺めていると、物凄いスピードで何かが近づいてきている。それに気付いた瞬間、窓の正面から離れた場所へと移動した。

 予想した通り、物凄いスピードで近づいてきた何かは、俺の部屋の窓から、中へと入ってきた。


「いった~い、どこよ此処は・・・・・」


 部屋に入ってきたのは、見知らぬ少女だった。

 何故、こんなところに少女が?いや、そんなことよりも、どうやって俺の部屋に入ってきたんだ。窓から入ってくるのは見ていたが、ここは二階だぞ?それに、どうやったのか説明が出来ないほどの速さで飛んできた。

 この少女には、色々と聞かなければならないことがある。

 だが、俺が話を聞くよりも先に、少女の方から話しかけてきた。


「貴女、『なんだこのガキは!』とか思っていたでしょ。これでも私は、二十一歳なんだからね」


「ああ、そうですか。それで、こんなところに一体何の用が?」


「ふん、聞いて驚くなかれ。私は風を操る『超越者』なんだぞ。どうだ!敬う気になったか?」


 彼女の年齢はともかく、『超越者』であることは本当なのだろう。そうでなければ、説明出来ないことが多い。

 この世界で起きることの説明が難しい事象は、大抵が『超越者』によるものだ。

 それにしても、こんなチビッ子が俺よりも年上で、風を操る力を持っているとは、世も末だな。

 関わると、ろくな目に合わないのは明白だ。

 今すぐに追い出すべきだろう。


「はいはい、良い子は家に帰る時間ですよ。家はどこ?しょうがないから、家まで送ってあげるよ」


「ば、馬鹿にするな。それと、私にはやらなきゃいけないことがあるから、まだ帰るわけにはいかないの。分かった?」


「分かった分かった、それで、用とは?」


「随分とテキトーね・・・・・。まぁいいわ、私は、ここらを拠点にしているギルド【幽谷の影ブラックバレー】を訪れに来たのよ」


 ギルド、その存在を知らない人は、この世界にはいないだろう。非政府組織ではあるが、この国だけでも数多く存在している。ギルドは、大抵が『超越者』たちで構成されていて、警察でも手に負えない荒事の解決など、依頼されたことを解決する何でも屋みたいなものだ。

 そんなとこを訪れたいなんて、絶対に面倒ごとを持っているに違いない。ギルドへ加入志望かとも思ったが、流石にそんなことはないだろう。

 つまり、このまま帰ってもらうのがベストな選択というわけだ。とはいえ、このチビッ子が素直に帰るとは思えない。

 一先ず、部屋の窓を閉めた。ありえないだろうが、同じことが起きたら嫌だからな。

 俺は再び椅子に座った。少しだけなら、彼女と話をしてみるのも面白いかもしれないと思ったからだ。

 その意図が伝わったのか、彼女も座って話す姿勢をとった。


「それで、ギルドには何の用なんだ?」


「はぁ~なんで貴方なんかに話さなきゃいけないのかしら。でもいいわ、私だって、この街について聞きたいことはあるから。それで、聞きたいのは、訪れた理由だっけ、そんなの決まってるじゃない。入れてもらうためよ」


「それなら、何でこの街にしたんだよ。他にも有名なギルドはいっぱいあるだろ」


 俺の言葉に、彼女は呆れた様子で首を振るった。

 なんかムカつくな。

 呆れ顔で説明をしてきた彼女いわく、【幽谷の影】というギルドは彼女にとって特別な場所らしい。

 だとすれば、これ以上彼女に何か言っても、無駄なのだろう。良くも悪くも、頑固そうだし。

 これ以上、話していても一方通行の状態が続くだけだ。彼女には悪いが、この辺で話を終わらせて帰ってもらうことにしよう。

 だが、彼女は動く様子はない。それどころか、まだ話を続けようとしている。


「そういえば、貴方の名前を聞いていなかったわね」


「俺の名前?紫苑しおんだけど」


「そう、随分とカワイイ名前なのね。私は、七条風華しちじょうふうかよ。よろしく」


 よろしくってことは、まだ居続けるつもりなのか。俺としては、ここでサヨウナラにしたいのだが、無理かもしれない。

 いや、それ以上に俺は彼女に言わなければならないことがある。

 せっかくキレイにしていた部屋が、彼女のせいで荒れてしまった。当の本人は、何も気にしていない様子。

 ヤバいぞ。この子、【幽谷の影】のことについて話すまで帰る気がなさそうだ。

 しかし、状況が一変する。彼女は窓の方を見ると、一気に慌てた表情となる。そして・・・・・・


「離れて!」


 その言葉と同時に、彼女は俺を椅子の上から押し倒した。そのまま俺を全身で覆った。決して、イヤらしいことの為ではないだろう。むしろ、これは俺を守ろうとしている体勢だ。

 俺も窓の方を見た。目に映ったのは、この家に接近している火の塊。

 そして、それが建物ごと俺たちを襲った。次々に放たれる攻撃によって、部屋どころか、家が焼けこげていく。だが、そんな中でも俺は怪我どころか、暑いとすら感じていない。それもひとえに、彼女の力によるものだろう。実際、俺と彼女を、風の壁が守ってくれている。

 十秒ほどで、攻撃は止まった。それでも、建物は跡形も残っていないと言っていいくらいボロボロとなっている。

 部屋の中にいた筈なのに、気付けば外に出されることになった。

 

「おい女、今度こそ殺してやるよ」


 そして聞こえてくる見知らぬ男の声。

 やはり、彼女と関わったことで面倒ごと起きてしまった。

 はぁ、俺が落ち着いて普通に暮らすのは、遠い未来なのかもしれない。

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