天使突抜ッ! シーズン1~可憐な運び屋の危険な日常~
卯月響介
mission1: 最強最速の天使 ~コトリバコを輸送せよ~
1, 天使運輸、再起動!
由来は、天神様の境内を貫くように道が作られたため。
そのため、我々が思い描く
しかし、案ずるなかれ。
今の天使突抜には、とびきり美しく、優雅であり完璧で、めちゃくちゃ危険な“天使”がいるのだ――
◆
AM10:23
京都市 天使突抜一丁目
JR京都駅からもほど近い、いわゆる“イメージ通りのKYOTO”が広がる一角。
京町屋と寺社、現代的な文化住宅が、狭い路地の中に混在する区域だ。
天使突抜と呼ばれるこの地に、とある5階建てのビルがあった。
瓦屋根をまとい、石造り風を気取った、薄灰色の瀟洒なコンクリートビルディング。
マンションと一戸建てに挟まれたそれは、一見すると集合住宅のようにも見えるし、何かの事務所のようにも見える。
実際のところ、その両方なのだが、いかんせんどこにも表札や看板の類は無い。
ただ、一階部分をぶち抜いて作られたガレージに、古いスポーツカーが停まってることから、誰かしら住んでいるのはうかがえるが……。
「はい、
太陽も顔を既にのぞかせ、雲一つない青空を照らし続ける朝10時過ぎ。
建物2階にある事務所の固定電話が鳴った。
本棚に観葉植物、そして落ち着いた色のソファと事務机が並ぶ。
レトロなダイヤル式電話の受話器を取り上げたのは、お洒落な蝶ネクタイのついたフリルのシャツとプリーツスカートに身を包んだ、うら若き美女のしなやかな手。
腰まで伸びるシルバーアッシュのポニーテールに琥珀色の瞳、彫刻のように整った顔立ちが、オトナっぽさを醸し出す。
彼女はしゃんと背を伸ばし、はきはきと言葉を続ける。
「はい、荷物のお見積りですね。
お伺いする時間と場所は……はい……はい……わかりました」
肩に受話器を挟んで、メモ用紙にペンをすらすら走らせる。
「かしこまりました。 それでは本日正午に、お伺いいたしますね。
……はい、失礼いたします」
そういって電話を切ると事務所を出て、鼻歌混じりにすぐ脇の階段をのぼっていく。
3階。 目的の部屋へとたどり着いた彼女は、コンコンと優しくドアをノックした。
「
返事は無い。
つまり、書かなくても分かることだが。
寝てる。
「
サイドノックをしても反応なし。
しかたなく彼女は、ドアノブを回し、部屋へと入った。
おしゃれなドレッサーやスタンドライトに混じり、木目調の棚にはミニカーや車のプラモが並べられ、壁にはライセンスプレートのインテリア。
自分の趣味に囲まれ、部屋の主は窓際のベッドの上で寝息を立てているではないか。
どこか幼さの残る、あどけない顔の女性は、下着の上からワイシャツ一枚という姿。
「も~、また夜更かししてっ」
ドレッサーに目をやった彼女は、部屋の主が昼前まで夢の中にいる理由がわかり、首を大きく横に振った。
そこには、マニキュアの代わりに接着剤、メイク道具の代わりにピンセットやニッパーが置かれ、囲まれるように、ほとんど完成したプラモデルの車が鎮座している。
その車が古いポルシェであることは、車好きでなくとも、外観を見れば一目瞭然。
白黒のボディに赤色灯。 日本のパトカー仕様だろうか。
が、今はどうでもいい話でしかない。
「起きなさい、碧。 もう10時半だよ」
「んっ……ん~っ」
体を揺さぶられ、夢の中から強引に引き上げられた、その娘。
茶髪ボブカットの間から、とろんと見開く透き通った瞳が見えると、ようやく起きたかと、彼女は安心した。
とは言うものの、話しかけ続けないと、確実に寝そうなほど、まだ完全には頭も体も起きていない。
「久しぶりのお仕事だよ! も~、早く起きるっ!」
その一言に、碧と呼ばれた少女は、起きなければいけないと理解する頭をフル回転させるように、両手で顔を覆いながら声を絞り出す。
「しご…と……っ」
「そっ! 運び屋のお仕事!」
腹の底からくぐもった声を響かせ、それが起動の合図であるかのように、ボブカットの少女はベッドからゆっくりと起き上がった。
いや、碧を少女というには語弊があるか。
可憐さとは裏腹に、体のしなやかなラインに、顔つき。
20代ぐらいだろう。 少女の面影を持つ女性、と表現した方がいいのかもしれない。
「んっ……何時に?」
「正午に来てくれって。 場所は京都市内。
コーヒー淹れとくから、顔洗って着替えたら、事務所にね」
「ありがとう、
要件を伝え終えると、起こしに来た彼女― 澪は、自分の支度のために踵を返して、部屋を後にする。
一方の碧は、眠い目をこすると、部屋のカーテンを思い切り開けた。
差し込む日光に、一瞬目がくらむが、まぶしいほどの明るさと、近くの小学校から聞こえてくるチャイムに、寝ぼけ続ける脳内は完全に覚醒することとなる。
碧は、すぐさま時計を見た。
チャイムが鳴る時間で、今が何時か大体わかるのだが。
無駄に夜更かしした自分の勘は、完全には信用できない。
壁にかかった簡素なアナログ時計の長い針は、無音の秒針に従いながら、40分をとうに通過していた。
「流石に夜更かしがすぎたわね」
反省の無い苦笑をひとつ、碧は可憐な顔に浮かべると、ドレッサーに置かれたプラモデルを横目で眺めるのだった。
大きく息を吐き、背伸びをしながら気持ちを切り替えて。
「さて、と。
続きは、2週間ぶりの仕事が終わったら、としますか」
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