第3話(悠人視点)
僕と優衣義姉さんの初めての出会いは、小学四年生の時。
当時、僕はいじめられていて、泣いてばかりの日常を送っていた。
小学四年生となると、人の嫌がることを自分で進んでやりたいと思うような、やっかい極まりない年頃だ。それに、我慢するということを知らないため、容赦の無い悪意が僕の心を蝕んでいった。
初めて義姉さんに出会った日もいつもと同じようにいじめられていた。
公園で遊んでいるときに仲間外れはもちろんのこと、泥を投げられたり、苦手な虫を押しつけてきたり、殴る・蹴るなどの暴力を受けていた。
周りの大人も、子供同士のことだからと、特に注意することも無く無視を決め込んでいた。僕がどれだけ訴えてもだ。
助けを求めても、誰も助けてくれない。そんな絶望に明け暮れている中、あの日僕は、運命の女神様に会ったんだ。
「こらぁぁぁーーー!!やめなさぁーーーーーい!大勢で一人の子をいじめて、楽しいの?自分がされて嫌なことはするなって、親から教えて貰ってないの?いじめなんて絶対にしちゃダメよ。そこにいるおばさん達も!見たところ、この子達の母親でしょ。なんで止めさせないんですか!」
「お、おばさん!?あなた、一体何様のつもり?突然、人の子に突っかかってきたと思ったら、いじめですって?あんたなんかに言われる筋合い無いわ。それに、これは単なるじゃれ合いよ。スキンシップの一つよ。変な言いがかりは止めてちょうだい。」
「じゃれ合いですって!?それなら、私がおばさんに泥を投げて服を汚しても、突然頬を殴ってもじゃれ合いになるんですね。」
「そんなわけ無いでしょ!馬鹿なこと言わないでちょうだい。子供だから許されるのよ。所詮は、子供の遊びよ。」
「子供だとしても、許されることと、許されないことがあります。何なら、お巡りさん呼んで、はっきりさせますか?あぁ、大人数でいじめているときの様子を撮影しておいたので、不利になるのはそちらだと思いますが。」
「このガキ.............ちっ、悪也、行くわよ」
いじめっ子とその母親達は、流石に分が悪いと思ってか、逃げるように帰って行った。
僕は呆然とそのときの様子を見ていた。途中、義姉さんが帰って行くいじめっ子達の親に「親に道徳心が無いから、子供も性悪になるんです。もう一度、小学生からやり直して道徳を学んできたらどうですか~」と煽っていたのを見て、笑いそうになったが。あまりの出来事に、頭の整理が追いつかなかった。
「そこの少年、大丈夫だった?ごめんね、来るのが遅くなって。証拠を取っていた方が良いと思って、撮影していたから。」
「ぼ、僕は.............」
「今まで、一人で耐えてきて、辛かったよね。もう我慢しなくても良いんだよ。」
「...........っ!ぐすっ.......ずらがっだよ、だれもだずげでくれなくて。こわがっだぁぁぁぁ!!」
今まで、ずっと隠し通してきた悲しみ、恐怖、辛さが一気に溢れ込んできて、自分で自分がコントロールできなくなってしまっていた。
涙と鼻水だらけの僕を義姉さんはずっと抱きしめてくれていた。
そのとき、人生で初めて、恋というものをしたんだと認識した。
その後、丁寧にお礼を言って、一緒に帰路についた。気付けば、辺りは暗くなっており、長時間束縛してしまっていた事に申し訳なさを感じたのと同時に女性に初めて抱きしめられた事を思い出して、少し恥ずかしくなって、体温が上がっていくのを感じた。
それ以上に、この人に出会うことが出来たという嬉しさが溢れ、胸が熱くなる。
聞けば、家の近くに住んでいる、ご近所さんらしい。
「いつでも、会いに来てね!」
「はい!ありがとう、お姉さん!!」
もっと一緒にいたかったけれど、迷惑かもしれないし、これからはいつでも会いに行けるので、わがままを押し込めながら、義姉さんと別れた。
これからの生活に、今まで無かった希望を持て、嬉しさを噛みしめながら家の扉を開いた。
それから数年、親の都合で僕は祖父母の家で預かられることになり、会えなくなり、高校生になってから、予期せぬ形で再び出会うことになるとは、知らずに。
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