第81話 蝙蝠

 北河総督の官署には五棟の楼があったが、長年蝙蝠たちに占拠されていた。大小一体何匹いるのか見当もつかなかったが、その中に一匹、真っ白で大きさが車輪ほどにもなろうかという蝙蝠があった。それは蝙蝠どもの首領であり、怪異を為すことができた。そのため歴代の総督たちは皆、楼を閉鎖し住まわなかった。

 のちに、福建の李清時公が正一真人を招きお祓いをすると、果たして蝙蝠たちはすべて飛び去っていった。しかし、ほどなくして李公は世を去り、蝙蝠たちは再び戻ってきた。これ以後、誰一人としてこの楼に関わろうとする者はいなくなった。


 私が思うに、湯文正公(湯斌。清代初期の朱子学者)は五通神(蘇州地方で数百年信仰されていたとされる淫祠)を廃したが、これは民の害を除くためである。然るに、蝙蝠は楼を占拠していたものの、人に対して危害を加えていたわけではない。李公の行いは、まことに、やめられるものであったのにやめられなかったのだ。

 李公が在職中に亡くなったのは、蝙蝠の件と時期がぴたりと一致するが、これを蝙蝠の祟りだとすることはできまい。寿命の長短には定められた数があり、どうして妖怪がそれを操る権限を持てるというのか。




紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻九「如是我聞三」より

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