第27話 度帆楼
亡くなった母方の祖父は、衛河の東岸に住んでいた。水辺の近くに楼閣があり、名を「度帆」といった。この楼は西を向いていたが、楼の下層の門は東向きであった。東にはそれとは別に庭があり、楼とは繋がってはいなかった。以前、下男の史錦捷の妻がこの庭で首を吊った。そのため長らく無人で、閉鎖もされていなかった。
とある下男と下女がこれらの事情を知らず、夜中ここで逢引きをしていた。すると、門の外でサササッと人が歩くような音が聞こえる。二人は逢引きが露見することを恐れ、伏して動こうとしなかった。こっそりと門の隙間から窺い見れば、首を吊った女の幽鬼が階段の上を徘徊し、月明かりに向かってはぁ……とため息をついている。二人は両足がガクガクと震え、門の内側で全身がこわばってしまって、外に出ようとしなかった。門でこの二人が居座っているものだから、幽鬼もまた中に入ろうとしない。しばらく膠着状態であったが、犬が幽鬼を見つけて吠え、その鳴き声を聞いて他の犬たちも集まって来て一斉に吠え出した。人々は盗賊かと思い、蝋燭を灯し武器を手にして向かったところ、幽鬼は姿を隠し、下男下女たちの痴情が露わになってしまった。下女は羞恥のあまり身の置き場が無くなり、晩になるのを待って、その庭で首を吊った。発見されて助けられ、息を吹き返したが、再び目を盗んで庭に行こうとする。それは彼女が両親の元に返されてやっと止んだ。
幽鬼は部屋に入ろうとしなかったのではなく、彼らの情事を露見させ、下女に羞恥心を抱かせることで首を吊らせ、自分の身代わり(※)にしようとしていたのだと、そこでようやく悟った。亡き母方の祖母は言った。
「あの女は、生きていた時も陰険で狡猾だったが、死してなお、そのようであったか。成仏できないでいるのも当然だ。」
亡き太夫人はこのように言った。
「その下女がこんな事をしでかさなければ、幽鬼も機に乗じなかったのではないか?罪をすべて幽鬼に押しつけることは出来まいよ。」
※首を吊って死んだ幽鬼は、生きた人間に自分と同じ場所で首を吊らせ、身代わりを用意することで成仏できるとされていた。
紀昀(清)
『閲微草堂筆記』巻四「灤陽消夏錄四」より
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