第24話 羅両峰

 揚州の羅両峰は幽鬼の姿を目で見ることができた。彼曰く


「おおよそ人が居るところには必ず幽鬼が居る。横死した悪霊で、長いことこの世に留まっている者は、大半が薄暗くがらんとした家に住みついている。そうした家には近寄るべきではなく、また近寄ればすなわち害を被ることになる。絶えず往来している幽鬼たちは、午前には陽の気が盛んであるため、多くは塀の影に潜んでいる。午後には陰の気が盛んになるため、四散して彷徨い歩くのだ。彼らは壁を通り抜けることができ、門戸をくぐって出入りすることはない。たまに人間に遭遇した時には路を避ける。幽鬼は人間の陽の気を恐れていて、至る所に居るが害を為すことはない。」と。


また言う。


「幽鬼が集まるのは、常に人家が密集している場所である。僻地や荒野で見ることは極めて稀である。彼らは厨房のかまどを囲むことを好む。食べ物の気を味わおうとしているのだろう。また、厠へ行くことも好むが、それが何故かはわからない。或いはそこに到る人間の痕跡が少ないからだろうか。」


 彼が描いた作品に『鬼趣図』があるが、彼の想像の産物ではないかと思っていた。その中の幽鬼の一人は、頭が身体の数十倍もあり、とりわけ幻や妄想の類であるように思われた。しかし、亡き姚安公からこのような話を聞いた。


 瑶涇の陳公はかつて、夏の晩に窓を上げて寝ていた。その窓は一丈ほどの大きさであった。すると突然、大きな顔の幽鬼が窓の前に現れてこちらを覗き込んできた。その顔の大きさは窓と同じくらいであり、身体はどこにあるか分からなかった。陳公は急いで剣を抜き、幽鬼の左目を突き刺した。すると幽鬼は瞬く間に姿を消した。窓に面していた老僕もそれを見たと言い、彼曰く幽鬼は窓の下の地面から湧いて出て来たということだった。そこで、地面を一丈あまり掘り起こしてみたが、何一つ現れなかったため、あきらめた。


 やはり、この種の幽鬼は存在するのである。しかしこうも茫眛としているものを、一体どうやって確かめることができようか。


紀昀(清)

『閲微草堂筆記』巻二「灤陽消夏錄二」より

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