将棋サムライ~江戸の青空~
コーシロー
1
「先生、先生! いつまで寝てるの?」
ドンドンと腰高障子を叩く音とともに、いつもの声がした。
(う・・うん・・・あかねちゃんか)
栄太郎長屋と呼ばれる、棟割長屋の一室。
昨晩、酒に酔ったまま寝てしまったらしく、頭がガンガンと痛む。
(いかんな・・奢り酒だと思って、ついつい吞みすぎた)
頭を掻きながら、新次郎は、外に向かって声をかけた。
「あかねちゃん、わかった、今起きた」
「もう、先生ったら・・・」
そう言いながら、障子を開けて、あかねが入って来た。
「あ、もう、心張り棒が掛かってないじゃない。人にはいつも、
掛けろ、掛けろって、言うくせに」
そう言って、プウッと頬膨らませみせたのは、長屋の向かいに住む、
あかねであった。
黒々とした
薄く紅を
いつもそこからは、相手を思いやる言葉が紡ぎだされるのであった。
「いや、あかねちゃんみたいな美人の家はそうでなくちゃいかんが、
わしの所などに入る泥棒も痴漢もおらんからな」
「やだもう、先生ったら、美人だなんて・・・」
ちょっと頬を染めてみせたあかねは、両手で抱えていた四角い盆を、
床に置いた。
「こ、これ、今日も作りすぎちゃったから、食べてね」
あかねは、一人暮らしの新次郎を気遣って、「作りすぎた」と言っては、
毎朝のように朝ご飯を持ってきてくれるのだ。
「い・・いつも、すまんな」
「何言ってるの、作りすぎちゃったって言ってるでしょ?」
あかねはクルリと
「じゃ、あたし、仕事に出るから、先生も早く来てね!」
そういうと障子を閉め、駒下駄の音を響かせて出て行った。
(ふむ・・わしも、このままでは、いかんの)
あかねの出て行った障子を見つめる新次郎の目には、
僅かな憂いが
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