第16話 本当の世界

「春渡・・・春渡・・・」




何か俺を呼ぶ声がする。ゆっくり目を開くとそこには駅で別れたはずの愛莉が立っていた。周囲を見渡すと数体の首なしが不気味にこちらに向かってきている。




その異様な光景に俺は腰が抜けてしまい立ち上がることができなかった。その時、愛莉が涙声で聞いてきた




「ねえ・・・逃げよう」




その今にも消えてしまいそうな儚い声を聞いた俺は覚悟を決めた。愛梨の手を取り、一目散に走り出す。




「愛莉、こっちだ」




首なしは比較的ゆっくりとこちらに向かってきていたが、俺たちが走り出した瞬間急に速度を上げた。




当然だが俺と愛莉では俺の方が足が速い。初めは愛莉のペースに合わせて必死に手を取って走っていたのだが、首なしが近づいてくるにつれて段々余裕がなくなってきた俺は不意にペースを上げてしまい、気がつくと愛莉の手が離れてしまった。そして気がついた時には愛莉が転けてしまい、不気味なくびなしがすぐそこまで来ていた。




急いで愛莉の元に駆け寄り、手を取って再び逃げようとしたが、見渡すと俺たちは全方位を首なしに囲まれてしまった。




恐怖で足が動かなくなり、そっと愛莉を抱き寄せ俺たちは覚悟を決めた。




直後、何かが高速で横切る音と共に周囲の首なしが倒れ始めた。




遠くからは重低音のエンジン音が聞こえる。誰か助けに来てくれたみたいだ。




よくみると数台の車がこちらに来ていた。そしてスポーツカーから発射される銃とは違う、空気を切り裂くような、目にも見えない速度の何かが次々と首なしを倒していく。




「大丈夫ですか?」




周囲の首なしが殲滅された後、スポーツカーから降りてきた同年代ぐらいの男の人が声をかけてきてくれた。奥の車列からも続々と人が降りてきてくれる。この瞬間俺たちは死の淵から助かったということに気がつき、腰が抜けるような、何か安心したような脱力感がした。




「2人とも、ここは危険なので急いで避難しましょう。話は後から伺います。」




スポーツカーから降りてきた男性にそう声をかけられ、奥の大きな車に乗っていた男性がこっちに来いと手招きしている。同時に後ろのドアが開いたので俺たちはとりあえず乗り込むことにした。




「すいません助かりました。ありがとうございます」




車内に入ると俺と愛莉はお礼を言った。大きな車には男性の他に女性も乗っていた。雰囲気的に夫婦だろう




「礼を言われるほどでもない。しかし、まあ後少し遅れてたら確実に襲われていたな」




死の淵から救ってくれた人へ何と感謝を伝えれば良いのか、必死に自分の中の語彙から言葉を探していると




「君たちはなんであんな場所にいたんだ?あの辺一体はまだ首なしも多いし近付くのも困難なはずだ」




まあそりゃ聞かれますわなってことを聞かれた。車での移動は少し長そうなので俺は自分が目を覚ましてから、世界の果てに行くまでのすべての事を話してみることにした。




全てを話し終えると、男性が口を開いた。




「君たちは、"リビリオン"について知っているか?」




リビリオン、聞き覚えのある言葉だ。莉々菜が口にしていた組織名。その事を話そうとした時、急に車が加速して急ハンドルを切った。




窓の外を見ると今までとは比べ物にならない大きさの首なしが何体もこちらを襲撃していた。空を何かが飛び交い、首なしの胴体に当たって血や肉片が飛び出てる。おそらくさっきのスポーツカーの男性が戦っているのだろう。しかしながら首なしには全く効いてない。




「とりあえず境界線を超えろ。全く効いてねぇから撃つだけ無駄だ」




無線で男性がやり取りする声が聞こえる。助手席に座っている妻と見られる女性は、少し高そうなカメラで首なしの様子を撮影している。




車のタイヤから「キーッ」という高音の音が鳴り、また道が悪く車は前後上下に揺られ、シェイク状態だ。そして後ろを見ればデカい首なしが迫ってきている。




そんな危機的状況の中、車が突如減速し出した。




「ここまでくれば安心だ。洗い運転で悪かったな」




男性がそう口を開いたので後ろを見ると、首なしはある一定のラインからはこっちに来れないようでじっとこちらを見つめている(目がないけど)様だった




そして周囲を見渡すとここはさっき莉々菜が世界の果てと称していた場所と似ていることに気がついた。




横を見ると愛莉が無言で一点を見つめていた。多分車酔いで今にも吐きそうなのだろう。その顔が変顔みたいで少し笑いそうになったが必死に堪えた。




「ここまで来ればアレは追って来ないんですか?」




「あぁ、奴らはある一定のラインを過ぎると追って来なくなる。活動限界なのか移動限界なのか分からないが、まあ首なしに関してはうちの妻が研究してるから、詳しくはコイツに聞いてくれ」




助手席の人は熱心に首なしを撮影していると思ったらどうやら研究者らしい。




「初めまして。自己紹介がまだでしたね」




運転席の男性は荒い性格の様だが助手席に座っている男性の妻は大人しめというか、知性が溢れる喋り方だと挨拶を聞いただけで分かった。




「ここじゃなんですので、私たちの拠点でお話ししましょう。あなたたちのことも少し気になりますし」




どうやら俺たちは"拠点"に今から連れて行かれるらしい。

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リビルトリビリオン @LUXION2211

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