好きの分解
堕なの。
好きの分解
好き、スキ、すき、suki、like。好きの形は、輪郭線はどこにあるのだろうかと問われたとき、あのときの私は相手からの好きの度合いで変わると答えた。
「好きです。付き合ってください」
「いいよ」
校舎裏へ呼び出され、告白してきたのはクラスの男子だった。いつも通りOKを出す。それを親友に報告したら、やっぱりいつも通りドン引きされた。
「今何人と付き合ってんだよお前」
「6人」
こいつゴミだなという目をされて、親友は諦めたように深いため息をついた。
「何で一人にしないかねぇ」
「だって私を好きなんでしょ。好きには好きを返さなきゃ」
親友は何かを言いかけ、そして辞めた。困ったように笑う顔は何度も見た。その度にいつか刺されるよと笑い話になっていた。だと言うのに、今日は違った。
「皆、離れていっちゃうよ」
私は首を傾げた。でも、意味が分かるようになるのは直ぐだった。親友が私を避け始めたのだ。
「ねえ、なんで避けるの?」
「考えてみたら?」
取り付く島もなく私は困っていた。友だちどころか世間話をする相手すら私には居なかった。親友の大きさを離れてようやく知った。しかしよりの戻し方など知らない。来る者拒まず去るもの追わずな私は大切なものの引き止め方など知らないのだ。
「えー、楽しそーじゃん」
「だよねー、ちょー可愛い」
親友とクラスメイトの声が聞こえた。廊下の曲がり角に身を隠すようにしてその光景を見た。胸がズキッと痛んで、手に赤く痕がつくほど握りしめた。
家に帰って親友のことを考える。なぜ避けられているのかを本格的に探してみることにした。そして、思い出す。いつからだったか、私は親友の目を見て話さなくなっていたことを。気恥ずかしかったのだ、たぶん。今日の胸の痛みで確信した。私は親友のことが好きだったのだ。そしてたぶんそれに気づいた頃から、私は今みたいなスタンスを取ることにしたのだ。向き合う勇気がなかったから。
「話したいことがあるから、放課後時間ある?」
翌日、すぐに親友の元を訪れた。今のまま距離が離れていくよりも、ちゃんとケジメをつけておきたかった。言わなければいつまでも引き摺ってしまうから。
「ごめん。今日は予定が」
「じゃあ今でいい。ごめん」
親友は目を見開いて、そして苦しそうな顔をした。
「今更許さないから」
「ごめん。でも聞いて欲しい。親友なのにずっと見ずに喋ってた。好きで、向き合うのが怖くて、逃げてたんだ。本当にごめん」
親友は何の反応も示さなかった。恐る恐る下げた頭を上げれば、そこには泣いている親友がいた。
「えっ、ごめっ、なんで」
「違うの。私が好きだったの。誰かと付き合ってるところ見るのが嫌で離れたの。ごめん。ごめんなさい。言わせてしまってごめんなさい」
私も目尻から涙が溢れて、2人して泣いた。高校生にもなって声を上げて泣いた。落ち着いたらどちらからともなく抱きしめあって、2人でごめんと言い続けた。
その後は付き合っていた男全員と別れて、親友は彼女へと関係が変わった。私たちはずっと幸せに過ごした。
「ちなみに今だったら好きの形は何だと思うの?」
「色々あるって知ったから一概には言えないけど、私の好きは硬くてトゲトゲで自分も周りも傷つけちゃうような好きだと思う。だから、包み込んでくれるハニーが一番合ってる」
「ハニーって、いつもそんなこと言ってないでしょ。まあ、それは私も同じだよ。2人して遠回りして、傷つけあって、それでも今幸せだからそれでいいんじゃない?」
「そうだね。すっごく大好きだよ」
「私も」
好きの分解 堕なの。 @danano
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