第5話 霞む風景
唸るエンジン音。
振動を感じる。
死を前にしているのに。
何故か。
心地良い。
偽りも一切無い。
澄み切った気持ちで進んでいる。
存在するのは。
君への愛。
何も。
汚れの無い気持ちで。
僕は。
無になれる。
遠くに。
敵の空母が見える。
それに向かって。
僕の戦闘機は飛ぶ。
海面が。
キラキラと。
奇麗だなと。
思った。
今は。
君が。
君の愛らしい笑顔を胸に抱いて。
僕は。
消えていくのです。
操縦桿のレバーを。
グッと、押し倒す。
機体が。
敵の空母に向かう。
愛している。
僕は。
脳裏に浮かぶ妻に向かって。
呟いたのでした。
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