第60話 トップは確実?

 僕はまず、この怪盗指定都市で一番高い建物に上った。

 そこで地上の様子を眺める。


 怪盗になって強化された視力で、街中の全てが手に取るように分かるのだ。

 そのまま、じっと動かずに観察だ。

 その間は長い沈黙が続く。


「あの、マスター。何をしているのです? 宝石は探さなくてもいいのですか?」


「ああ、こうやって全体を見ることの方が大事なんだ。そうすれば、どこに宝石があるのか分かるようになる。他の怪盗や警察、ベヒモスの位置も把握できるしね」


「そ、そういうものなのですか?」


 フォトはやや疑った様子だが、それを無視して僕はひたすら街の様子を観察する。

 警察は上位二人に夢中だろうし、他の怪盗は宝石探しに専念しているはずだ。


 確実に邪魔は入らないだろう。

 こっちも観察に集中できる。

 そうして長い観察期間を終えた後、僕は怪しそうな場所へと移動した。


「よし、まず一つ発見だ」


 そして草むらからビー玉ほどの宝石を見つけ出す。

 虹色に光っていて実に綺麗である。


「な!? どうしてここに宝石があると分かったのですか?」


「僕が主催者ならここに隠すんじゃないかな、と思ったんだ。後は一瞬だけ光が見えた。街の光と混同してややこしかったから、ちょっと時間はかかったけどね」


 この宝石はほんの僅かだけ虹色に輝いている。

 その輝きの種類を特定するのは大変だったが、一度特定してしまえば、後は芋づる式に宝石を見つけ出すことができる。


「街中の怪しい場所は全てチェックしたからそこを重点的に探索しよう。怪盗と警察の位置も把握しているから敵が密集している場所やベヒモスが近い所は避けるよ」


 そうして僕は次々に宝石を発見する。

 予想以上に読みは当たっており成果が高い。


「うおおお! かなりの宝石を集めています! この調子ですよ!」


 警察や怪盗の位置も把握してかち合わないようにしているので、安全に仕事を進められている。

 ステルスも全開にしているから、今の僕を発見するのは難しいはずだ。


「隠に対して特化している。つまりは陰を極めし者。これからマスターのことを『陰の王』と呼びましょう。どうです? かっこいいでしょ?」


「嫌な呼ばれ方だよ!」


 とにかく、かなりの数の宝石を手に入れた。

 現状での成績は上位だと思う。


「平均では宝石を5個集めたら優秀と言われます。こちらの手持ちはいくらですか?」


「たった今、30個になったところだよ」


「マジですか! これもう、我々の勝ちは確定ですな。がははは!」


 街ではそこら中から歓声が聞こえた。

 人気怪盗は宝石を手に入れる度に注目される。


 メギドもアメジストも既に警察を巻いていて、宝石を集める方に専念していた。

 ただ、二人が宝石を手に入れると歓声が溢れるので、警察もそちらにおびき寄せられていく。


 誰も僕が宝石を独占しているとは思っていない。

 おかげでさらに宝石を集められる。


 フォトじゃないけど本当に勝ちは確定したかも。

 第一目標は達成間近だ。



『さあ、怪盗並び観客の皆様。盛り上がっていますね! ここで中間発表の時間です』



 そんな時、実況の声が聞こえてきた。

 それと共に歓声も止む。


 目の前にバーチャル画面が出現した。

 全ての怪盗が任意で見ることができるようだ。



「し、しまったぁぁぁぁぁ!」



 すると、フォトが大声を上げる。

 声には鬼気迫るものがあった。


「ど、どうしたんだよ。フォト」


「大変です。を忘れていました! 大ピンチです!」


「中間発表で大ピンチ? なんで?」


「分かりませんか? 誰が一番宝石を持っているのか全員に知られてしまうのです!」


「…………あ」


 気付いた時にはすでに遅い。

 確かにこんなシステムは予想もしていなかった。


『現在のトップは……なんと、怪盗クチナシ!? え? 誰これ?』


 最初は困惑した実況の声。

 しかし、すぐに熱を帯びた声へと変わる。


『凄い! しかも、宝石を30個も保有しており、独走状態だ! 出たぞダークホース! その正体は……え? ランキング最下位? まさかの展開だぁぁぁぁ!』


 画面にはでかでかと僕の顔と名前が表示されていた。

 ご丁寧に宝石の取得数まで提示されている。

 僕が注目されるのは良いかもしれないが、今はタイミングが早すぎる!


「これにより、マスターが宝石を独占していることを他の怪盗全員に知られてしまいました。この先は全ての怪盗が群れをなしてマスターへと襲い掛かって来るでしょう」


「しまったな。もっと後半に一気に集める作戦で行けばよかった」


「実際、他の怪盗はそのつもりかもしれません。取得率があまりにも低い」


 つまり、誰かに宝石を集めさせて、そいつから一気に奪う作戦か。

 僕はまんまとその『誰か』を名乗り出てしまったのか。

 しかも最下位はいいカモだ。


「とにかく、どこかへ隠れましょう。ステルスを全開にしたらいけそうですか?」


「無理だ。僕を認識していない相手だったら有効だけど、一度でも強く『認識』されてしまえば効果は弱い。というか、もう遅い」


 二人の怪盗が空から降りて来た。

 ビルの上から僕の姿を探していたようだ。

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