第26話 会話の練習相手、ゲットです!

 姫咲さんの狂った依頼。

 結局、僕たちは引き受ける事にしました。


「分かりました。姫咲さん、あなたの願いはこの怪盗クチナシが叶えて差し上げましょう」


「ありがと! そう言ってくれると思ったよ。私、楽しみにしているからね。怪盗さん!」


 満面の笑み。

 まるでこの結末が分かっていたかのような態度である。


 これも成績トップである彼女の計算なのだろうか。

 その才能はもっと社会の為に使った方がいいと思います。


(ねえフォト、もしかして僕たちは、一番知られてはいけない人に正体がバレちゃったんじゃないのかな?)


(……むう)


 最初は姫咲さんで良かったと思っていたが、今やその判断は裏返りつつあった。


「そういえば、梔子君っていつも黙っているけど、それは自分が怪盗である事を秘密にするためなのかな? 目立たないようにしているのもそれが理由なの?」


「え、いや。それは……」


 何気に痛い部分を突かれた。

 どう説明しよう。


 『実は僕、コミュ障なんです』とか言ってしまって大丈夫だろうか?


 憧れの怪盗がコミュ障とか、それで失望されて、それこそ怨まれたりしないかな?


「あ、姫咲さん。それは違いますよ。実はマスター、コミュ障なのです」


 って、この人形! 簡単に暴露しやがった!?

 マスターの弱点を簡単に晒すじゃない!


「へえ、そうなんだ。コミュ障の怪盗さんなんてすごく珍しい! うん、可愛い!」


 姫咲さんの答えを聞いた僕はその場でズッコケそうになった。


 なにその反応?

 もしかして、姫咲さんもフォトと同じタイプ?


「ふっ。思った通りです。彼女からは私と同じ属性を感じました」


 マジか。

 いや、まあコミュ障を気持ち悪がられないってのはありがたい話なんだけどさ。


「そうだ。姫咲さん、先ほども会話の練習をしていたのですが、よろしければあなたもマスターの会話の練習に付き合っていただけませんか?」


「え? いいの? やった! 怪盗さんとたくさん会話ができるなんて、夢みたい!」


 そしていつの間にか姫咲さんも会話の練習相手に加えられてしまった。


 なんだか僕の意志を無視してどんどん話が進んでいる気がする。


 彼女と会話の練習が出来るのは嬉しい反面、緊張の方が気持ちの幅としては大きい。


 クラスのアイドルと会話とか、僕にはまだレベルが高いのではないか?


 一方、人気者で誰とも仲良くなれる彼女だからこそ、得る部分が大きいのは間違いない。


 ただ可愛いだけじゃあそこまでの人気は出ないだろう。

 確実にコミュ力の影響もあるはずだ。


 あわよくば、その会話術を盗むことができれば、僕にとってこれほどの収穫はあるまい。


「怪盗さん、会話のコツはね。だよ。私を信頼してくれたら怪盗さんも会話できるようになるよ。早く私を信頼してくれたら嬉しいな。その時を待っているからね」


 信頼……それが誰とも会話が出来る姫咲さんの極意らしい。

 一応、意識してみるか。


「でも、その前にまずは私の『お願い』を叶えてもらわないとダメだよ、怪盗さん♪」


「…………はい」


 本当にとんでもない人に正体を知られてしまったな。

 フォトが学校に来た途端にこれだ。


 やはりこの子は不幸を呼ぶ死神か何かではなかろうか?

 本人曰く女神らしいけど。

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