第20話 教室はトラブルだらけ!

 翌日、僕はフォトを鞄の中に入れて学校へと登校する。


(おええ~。気持ち悪い。マスター、もっとゆっくり歩いてください。鞄の中は揺れます)


 5分おきくらいにフォトからの苦情が頭に入ってきた。


(あの、それくらい我慢できないの? フォトは高性能なんだろ?)


(高性能でも無理なものは無理です。もうここで吐いちゃっていいですか? いいですよね?)


(ダメだっつーの! ゆっくり歩くから、頑張って耐えなさい!)


 というか、なんでロボットなのに酔うの?

 本当に無駄に人間っぽい機能がついているよな。


 揺らさないようにフォトに気を使いながら学校向かう。

 死闘の末、ようやく学校に到着。


 着くころには、ほぼ揺らさずに歩くテクニックを僕は習得していた。

 自分で自分を誉めたくなる。


(おお! これが学校なのですね! たくさんの人がいます! JKの宝庫です!)


 当の本人は僕の苦労など全くお構いなしにはしゃいでいる。

 さっきまで死にそうにしていたのが嘘みたいだ。


(外の様子が見えるの?)


(舐めないでください。私に搭載された透視カメラは物質を透き通して、外を見ることができるのです。おかげでここからでも可愛いJKが透けて見放題ですよ。ぐへへ)


(おっさんか!)


 本当にこういう所だけ無駄に高性能だな!

 つーか犯罪だろ、この人形!


 そうして僕は自分の教室に入って席に着く。

 存在感の無い僕に相応しい窓際の席だ。


 フォトもクラス内の状況に興味があるらしく、透視能力を使って周りを見渡せているようだ。

 時折「おお」みたいな声が脳内に響いてくるのがその証拠である。


(お、あの周りから囲まれている可愛い子は、昨日の方ではありませんか)


 姫咲さんのことを言っているのだろう。

 彼女はいつでも人々から親しまれる人気者だ。


(ねえ、マスター、あなたもあの輪に加わってはどうですか?)


(無茶言うなよ。そんな事が不可能なのは、誰よりも君がよく分かっているだろ)


(おっと、そうでしたね。まずはコミュ力を引き上げなければどうにもなりませんな。そのために学校に来たのでした)


 こいつ、完全に目的を忘れていただろ。

 やっぱり遊びたいだけなんじゃないのか?


「ねえねえ、私さ。昨日、怪盗さんと会っちゃったよ!」


 姫咲さんは怪盗について話題にしていた。

 この教室ではいつでも怪盗の話題が絶えない。


 それにしても姫咲さん、怪盗と出会ったんだ。

 凄いな。いったい誰と会ったのだろう?


(いやいや、どう考えてもマスターの事でしょ!?)


 はっ!? そうだった。

 僕も怪盗だったんだ。


 どうも現実味の無い話で、どこか他人事に思えてしまった。

 もっと怪盗としての自覚を持たねば……


 そうなると、姫咲さんは僕の話をしているのか。

 本当に他人事じゃない。


「それでサインを貰おうとしたんだけど、逃げられちゃったよ~」


「当たり前だよ。怪盗は正体を知られたらダメなんだから。というかその怪盗、一般人に見つかるとか、かなりドジな怪盗よね」


 ドジで悪かったですね!

 ……これからは、もう少し気を付けます。


(この姫咲さんという方、ずいぶんと怪盗の話に熱が入っていますね)


(彼女は大の怪盗好きなんだよ。怪盗の事になると人格が変わるとの噂だよ)


(おや。だったら昨日はチャンスだったのですね。悪い事をしましたね)


(別に。正体がバレそうだったし、あの対応でよかったよ)


(そうですか。ま、あの人気なら彼氏の一人はいるでしょうしね)


(それが、姫咲さんは怪盗が好きすぎて、怪盗以外と付き合う気はないらしい)


(なんと! だったら昨日のうちに食ってしまったらよかったですね。しまった)


 食うって……。

 この子、人形のくせに妙に下劣な性知識を持っているな。


「怪盗さんって、普段は何をしているんだろうね」


「きっと目立たないように普通に生活しているんだよ。このクラスにも潜んでいたりしてね」


「つまり、このクラスの目立たない奴が怪盗じゃねえのか?」


 教室が騒めく。

 いつの間にかクラスの男子までも会話に参加していた。


 クラスの中心人物である姫咲さんの話題はすぐに広まるのだ。


「よし、みんな。このクラスで目立たない奴を探すんだ! そいつが怪盗だ!」


 しかも、なぜかいきなりクラス全員での怪盗探しが始まってしまった。


 これ、まずくない?

 クラスで目立たない奴って、僕しかいないぞ。


(マスター。覚えていると思いますが、正体を知られたら怪盗の資格は剥奪です)


 もちろん、覚えている。

 さらに怪盗の正体を当てた人は多額の賞金が貰える。


 それだけ皆は必死に僕の正体を暴こうとするわけだ。

 これは僕にたどり着くまで時間の問題か!?

 もうダメかもしれない!


「ち、よく考えたら、このクラスに目立たない奴なんて誰もいねーよ」


「そうだよな~。簡単に怪盗が見つかったら苦労はしねーよな」


 その声を聞いた僕は、その場でずっこけそうになった。

……僕の事は無視ですか。


(マスターはみたいですね。流石でございます)


 褒められているようだが、全く嬉しくない。

 本当に透明人間にでもなった気分だ。


 とにかく、今回の危機は去った。

 いきなりこんなピンチになるなんて思ってもいなかった。


 学校……か。

 今まではなんとなくで過ごしていたが、本当はかなり危険な場所なのかもしれない。

 これからはもっと注意した方がよさそうだ。


(まったくです。油断は禁物ですよ)


(ちなみにこんなのは今日が初めてだからね。フォトが来たらこうなったんだ。君、実は疫病神なんじゃないのか?)


(失礼な! 私はどちらかというと女神です!)


 女神ならもう少しその毒舌を何とかして欲しいものである。


「目立たない子……か。ふむん」


 姫咲さんが真剣な表情で腕組みをしていたのが少しだけ気になった。

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