第5話 人形が相手なら普通に喋れるみたいです

「ダメだ。それでも、僕には怪盗なんて無理なんだ」


「まだ言いますか。何を渋る必要があるのです? もしや、あなたはアホなのですか?」


 アホって……本当に口の悪い人形だ。

 そんなので勧誘が務まるのか?


 いいだろう。

 それなら、今ここで失望させてやる。

 早いか遅いかの違いだ。


 僕がどうしようもないダメ人間だという事を思い知れ!

 そして失望せよ!


「僕は…………障なんだ」


「は? なんですか? よく聞こえません。もっとはっきり言ってください」


「僕は…………コミュ障なんだ! だから、僕には怪盗なんて無理だ!」


 言われた通りはっきりと言ってやった。

 怪盗として……いや、人間としてあるまじき欠点をぶちまけてやった。


 さあ、美しき人形よ。

 こんな僕を見て、存分に軽蔑するがいい。


「…………」


 そう思っていたのだが、フォトは何を言われているのか分からないようで首を傾げていた。


「あの、何で無反応なの? 話、聞いてる?」


「いや……っていうか、嘘ですよね。そんなので逃げられると思ったのですか?」


 軽蔑はされたが、思ったのと違う。…………嘘?


「嘘じゃないよ。なんで信じてくれないんだよ」


「だってあなた今、ものすごく喋っているじゃないですか」


「…………え?」


 言われて僕も自分の首を傾げる。

 二人揃って同じポーズで、ちょっとシュールな光景だ。


 でも、確かにそうだ。

 今の僕、めちゃくちゃ喋っているじゃないか。


 なんでだ?

 どうして、今の僕はこんなにも喋れる?


「そうか! 相手が呪いの人形だからだ! 緊張する要素も無いし、別に気を遣ったりする必要が無いから、普通に会話ができるんだ!」


「おお! なるほど! って、誰が呪いの人形か!」


 再び手足をジタバタさせながら怒るフォト。

 うん、でもやっぱり緊張はしない。


 人間が相手ならどうしても緊張してしまうが、こんな非現実な気配が漂う人形だったら、緊張はしないらしい。


 ましてや毒舌であるフォトに気を遣う必要は微塵もない。


「ま、理由は分かりました。要するに私が人間ではなく、人形の姿なので普通に会話が可能という事ですね。もっとも、私が可愛すぎるというのも理由かもしれませんがね」


「後半はともかく、前半についてはそうみたいだ」


 つまり、この人形が相手ならば、僕はコミュ障ではなくなる?


「ならば問題は無しですな。さあ、怪盗になりましょう!」


「待て待て。君が相手なら大丈夫だけど、僕は他の人に対しては本当にやばいレベルのコミュ障なんだよ。常人がドン引きするくらい全く誰とも会話ができないんだ!」


 この町の怪盗はアイドルみたいな存在だ。

 それがコミュ障なんて大問題である。


 そうじゃなくてもなんて許されるはずがない。


「ふむ、なるほど。ですが、それで最強を捨てるなんてあまりにも惜しい」


 腕を組んで何やら考え事を始めるフォト。

 とりあえずは信じてくれたみたいだが……


「そうだ! では、こうしましょう。あなたはコミュ障を克服するために怪盗となる。つまり、のです」


「…………は?」


 思っていもいなかった提案に、思わずヘンテコな声が出た。

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