第12話 奏多、ターゲットを探す

「こちらをお引きください」


 委員会から二つ折りの紙と、名札を手渡された。

 紙には43番と書かれた数字。名札には90番と数字が書かれているだけだった。


「なんだこれ?」

「おみくじか?」

「何が始まるんだろう」


 周りの探検家がはてなマークを浮かべる。

 俺もさっぱり分からない。


『手渡された名札を左胸につけてください』


 みんなが指示に従う。

 いったい何が始まるんだろうかまったく見当が付かない。


『今から皆さんには、紙に書かれた番号の名札を奪っていただきます』


「名札を奪う?」

「どういうことだ?」

「奪い合いってこと?」


 ルールはこうだ。

 先ほど紙を引いた番号の人物を探し出し名札を奪うということ。

 ただし、相手を殺したりすれば失格。スキルや武器、アイテムの使用有り。


 一つ気がかりなのはこの何万人もの中から特定の名札を持っている人を見つけるのは至難だということ。


『言い忘れていましたが、制限時間は三十分です』


「三十分でこの中からどうやって探せってんだよ!」

「第一第二種目といいどうかんがえてもクリア不可能すぎだろ!」

「おい! 聞いてるのか! ク〇委員会!」


 周りから文句の嵐。まぁ、無理もないだろう……。

 探検家の交流が目的のイベントでSSランクのモンスターと戦う羽目になるとは思わなかっただろう。


『静粛に。我々委員会のルールに異議申し立てをするようでしたら速やかにお引き取りくださいませ』


 冷徹な声が響き渡り、静寂があたりを包む。


「……!?」


 ――突如、後ろから殺気。


「俺のことずっと見てるけど、どうしたんだ?」


 俺は前を向きながら背後にいる一人の男性に向かって告げた。


「なんだ~バレてたんだ」


 ドレイクだ。ずっと俺の後ろで殺気を放っていた。嫌でも気づく。


「やっぱり君が参加するんだね」

「なんのようだ?」

「別に用なんてないよ。今回の種目も余裕そうだなと思ってさ! キリッ☆」


 いつものように決め顔をするドレイク。

 さっきシャルルに殴られたからか頬のあたりを気にしている。相当痛かったんだろうな。


「あぁ、これ? これは愛のムチってやつさ! シャルルちゃん思い切りがいいよね!☆」


 こいつ殴られて喜んでる。

 意外とMかもしれない……。


「それにしても不思議なルールだよね。この人数の中から一人のターゲットを見つけるなんて不可能なのに……」


 周りの探検家を見渡しながら喋るドレイク。


 たしかにそれは俺も思った。

 まぁ、恐らくこれぐらいの種目を突破できないような探検家は優勝するに値しないということだろう。

 種目のルールは伊原さんが決めてるって言ってたし。


「そういえば、君の名札は何番だい?」


 ドレイクが唐突に訊く。


「90番だけど」

「あぁ、なるほどね……」


 するとドレイクは納得いった表情を浮かべた。


「どうしたんだ?」

「あっ、いや。どうやら君とは戦う運命だなと思ってさ」

「それって……」

「あぁ、君と戦うのは本選までとっておきたかったんだけど、そうもいかないみたいだ」


 ドレイクは名札と紙を見せてきた。

 ドレイクの名札には90番、そして紙には43番と書かれている。

 43番は俺の名札の番号だ。


「僕のターゲットは君。そんでもって君のターゲットは僕」

「おいおい、そんなことあるのか?」

「僕も驚いちゃったよ! まるで運命のいたずらだよね! キリッ☆」


 しっかり決め顔をするドレイク。


「どうやら本選にいくまでに君の化けの皮を剥すことができるなんてね……こんな嬉しいことはないよ!」

「だから、ワイバーンを倒した配信は本当だって言って――」

「まぁ、どんな手を使ったかは分からないが、方法はいくらでもあるもんね!」

「いやだから……」


 なんとか分かってもらおうと説明するがまったく聞き入れてくれない。


「これで君に騙されてるレディーたちを救えるよ。こんなに嬉しいことはないな~!」

「おーい、聞いてるか?」

「この勝負が終わればレディーたちは僕の物! あぁ! なんて素晴らしいんだろう」


 髪を思い切り駆け上げながらそう言った。


「いや、ぶっちゃけ言うと芽衣たちはお前のこと嫌って――」

「君の醜態が全世界に配信されると思うと嬉しくて頬が緩んじゃうよ~☆ キリッ!」


 こいつ本当に人の話を聞かない奴だ……。

 俺は喋るのを諦めることにした。


「それじゃあ、僕と戦う前にやられないようにね~インチキ探検家」


 一方的に嫌味を言い放った後、人混みへ消えてゆくドレイク。

 あんなやつが女性リスナーに好かれている理由が分からない……。

 いったいどこがいいんだろう。


「っていうか結局あいつ、何しに来たんだよ……」


 まぁ、だけどターゲットが分かったのはありがたい。

 この大人数の中から特定のターゲットを探すのは至難の業だ。


「お!」


 突如一斉にテレポートが始まった――

 一瞬にして景色が変わる。

 驚いた。配信画面で見たときもびっくりしたけどいざ自分が体験すると不思議な感覚だ。


 テレポートされた先は、普通のダンジョン。周りにはモンスターすらいない。

 辺りは静寂に包まれており、探検家たちの喉を鳴らす音だけが微かに耳に入った。


『それでは開始してください―――』


 ダンジョン内に第三種目開始のアナウンスが響く。

 




 その時だった――






「おりゃああああああああああああああああああああああああああ」

「しねえええええええええええええええええええええええええええ」

「どうにでもなれええええええええええええええええええええええ」


 周りにいた探検家たちが一斉に襲い掛かって来た。


「片っ端からつぶしてやる!!!!」

「おっと!」


 俺はそれを紙一重でかわしつつ、襲い掛かって来た五十人程を腹パンで戦闘不能にさせる。


「なるほど、片っ端から戦闘不能にしてお目当ての名札を奪うつもりか……」


 まぁ、そうするしかないよな。この中から特定の相手を探さなきゃいけないんだ。


「まったく、めちゃくちゃなルールだ。まったく……」


 呆れながらも。駆け抜けながら数百人を戦闘不能にしていく。一応気絶する程度に殴ってるから許してくれ。

 それにしてもドレイクのやつ、どこいった……?


 あいつのスキルが分からない以上。迂闊なことはできないが、時間制限があるため早急に探す必要がある。


「ぐっは!」

「ぼげっ!」

「うぅぅ……!」

「ぎゃああ」


 もう、これ軽い戦争だ……。配信を見てる人たちは楽しんでくれてるんだろうか。

 そんな不安を抱きつつも俺はドレイクを探しながら、周りの探検家たちを無力化していくのだった。

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