第15話 奏多、自宅配信をする

「俺もちょっくら配信するかぁ~」


 みんなが頑張っているなか俺だけぐーたらしているわけにもいかないしな。

 ふと、台所にあったカップラーメンの塩味が目に入る。


「料理するのめんどくさいし、これ食べながら雑談でもするか」


 配信画面をひらき、タイトルを入力。


『特にやることがないので、とりあえず雑談しながらご飯食べたりする(初見さん大歓迎)』


 タイトルはこんな感じでいいだろう。

 そして、配信ボタンを押す。


"奏多の家初めてみるわー!"

"家配信とか初めてじゃないか?"

"今日は何するん?"

"飯雑!!!ワクワク"

"何食べるの~!"

"ういっす!"

"俺も飯用意しようっと"


 すぐさま視聴者のコメントが流れ始める。


「じゃーん! 今日食べるのはこれです!」


 勢いよくカップラーメンをスマホの画角に収める。

 しかもBIGサイズ。


"カップラーメン!?"

"えっ、そんだけ?"

"料理しないの?"

"前はダンジョンで料理してたじゃん!"

"質素で草"

"もっといいもの食えよ"

"それだけで足りる?"

"超大手探検家兼配信者がカップラーメン!?"


 配信の収益で稼いでるからもっといい食事が出てくると思ったのだろう。

 みんな驚いている。


「いいお店に行こうと思えば行けるんですけど、めんどくさくて……それに、料理の食材を買うのがちょっと……」


 俺は、カップラーメンの蓋を開けるながら喋る。賞味期限今日まででよかった。


 そういえば、他の探検家はどんな食事をしてるんだろう……。


「ズルズル――」


 そんなことを考えながら、カップラーメンを啜る。


"めっちゃ美味しそうに食べてるw"

"俺も食いたくなってきた"

"飯テロ配信やん"

"美味しそう~!"

"食べたい~!"

"こんなに美味そうにカップラーメン食べてる配信者俺は知らん"


 美味い。どんな高級料理よりもやっぱりこれだな。

 お腹が空いてたのか、一瞬で平らげた。


「みんなは何を食べてるの?」


 俺は視聴者に向けて訊いてみた。


"俺もカップラーメン!"

"おでん食ってる"

"昼はなし!"

"マクドナルホ!"

"昨日の残り物"

"パチンコで勝ったからステーキ!"


 色々な食べ物がコメント欄に流れてくる。

 ダンジョン配信をしてると戦いに夢中で視聴者と会話をすることが少ないので、なんか新鮮だ。

 それに楽しい。


「こういう視聴者と触れ合う機会も中々ないので、何か質問とかありますか?」


 俺はおもむろに訊いてみた。

 すると勢いよくコメントが流れ始める。みんな気になっていたようだ。


"モンスターを料理するときのコツとかありますか?"


「うーんコツか……モンスターの構造を学ぶことかな? 料理して口にしないと美味しい部位は分からないから、たくさん料理したほうがいいよ」


 俺は真剣に答える。


「もし、モンスターの料理に困ったらとりあえず丸焼きで塩つければ美味しいから大丈夫!」


 スマホの画面に向かって親指を突き立てる。


"いや、そもそもモンスター食べようとしないから"

"丸焼きで塩は草"

"もうダンジョンで暮らしていけるやん"

"ダンジョンで暮らせば家賃要らないな"

"気づいてしまった……!"

"真剣に答えてて笑う"


 さて、次の質問は……。


"彼女はいますか?"


「いない。というか今まで一度もないんだよな~」


 十年間師匠と修行の毎日だったから、女性とそういった関係になったことはない。

 もちろん興味はあるけど。


"マジで!?"

"芽衣ちゃん暗女ちゃんチャンスだ!"

"二人とも見てるかもしれないよ"

"誰かと付き合った方がいいのに~"

"俺と付き合ってくれ~!"

"告白してる人いて草"


 恋バナでコメントが大盛り上がり。

 みんなこういう話すきだよなぁ。


「っていうか、キスもしたことも――」


 言いかけたところで芽衣にキスされたことを思い出す。


「あっ、いや。なんでもない。次の質問!」


"どうした?"

"キスしたことないのか~"

"動揺してる奏多可愛い~"

"なんでもできるのにまだ恋は未経験なのか"

"なんか可愛いな"

"俺がファーストキスしてやる!"

"奏多の事を狙ってる人いて笑う"


 俺は、恥ずかしさを隠しながらコメントに目を通す。

 危ない。視聴者に悟られるところだった。配信では恋バナは二度としないようにしよう。


"今まで戦ってきた中で強かった敵はいますか?"


「そうだなぁ。最近はあんまり強敵と戦う機会がないからなぁ」


 俺は、今まで戦ってきた相手を思い浮かべるが中々ピンとくる敵が浮かばない。

 やはり俺の中で強敵と言ったら雅さんだけど、敵ではないからな。


「うーん。敵ではいまのところいないかな~?」


"いや、ワイバーンは?"

"ワイバーンさんが強敵に含まれてなくて笑う"

"苦戦してる奏多を見てみたい"

"ワイバーンさん天国で泣いてるぞ"

"探検家狩りも強かったのに空気で草"

"ワイバーンさん可哀想すぎる……一応SSランクなんだけどな"

"もうこの人に勝てる人いないんじゃね?"


 微妙な回答だったと思うんだけど、コメントを見るに盛り上がってくれてるみたいだ。


「それじゃあ、そろそろ配信を終わりにします! 今日はありがとうございました~」


 大体、質問には答えたので配信を終了する。

 それと同時にスマホの通知が来た。


「あれ?」


 暗女からだ。

 さっきまで配信してた気がするが、どうしたんだろう。


『あ、あの……! 今度、私のお家に遊びに来ませんか? アドバイスしていただいたお礼をしたくて……その、ご迷惑でしたら無理しなくて大丈夫です!!』


 とても暗女らしいお誘いのメッセージが来ていた。

 とくに断る理由はないが、 俺なんかが家にお邪魔して大丈夫なんだろうか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る