第8話 奏多、武器屋へ行く

 ファミレスで腹を満たした俺たちは、代官山のとある武器屋へと向かった。


『エレノアの館――』


「ここが、奏多さんのお知り合いがいる武器屋ですか?」

「とてもメルヘンなお店の名前ですね……お人形さんとか飾ってそう……」


 二人が怪訝そうな目で店の看板を見つめる。

 まぁ、無理もないだろう。


 人目につかないところにあるため異様な雰囲気はあるが、武器の質は他のお店にも引けを取らない。


「それじゃあ、入るか」


 扉を引くと、カランカラン♪ と、可愛らしいドアベルが耳に入った。

 まるでカフェに来たみたいだ。


 お店の中は数々の武器とアイテムが並べられており、その奥には武器屋には似つかない姿をした美少女が一人――






「……いらっしゃいませ、ご主人様――」






 その美少女は銀髪の髪で透き通るような青い目。そして、メイド服に身を包んでいた。


 ――名はエレノア。


 エレノアはロシア人だ。そして師匠の知り合いでもある。元々SSランクの探検家をしていたが三年前に引退。いまは『エレノアの館』という武器屋を経営している。


「エレノア、久しぶりだな。俺の事覚えてるか?」

「か、奏多様……!」


 ものすごいスピードで俺の胸元へ飛び込んでくるエレノア。


「奏多様、ずっとお会いしたかったです……!」

「エレノア!? 急にどうしたんだ!?」

「しばらくの間、こうさせてください……」


 抱きつく形になる俺とエレノア。

 その姿をジト目で見つめる二人。


「奏多さん……これはどういうことですか?」

「奏多さんて、女たらしだったんですね……」

「いや、これはその……誤解というか……」


 何故だろう。二人と関わるたびに俺の印象がどんどん悪くなっていってる気がするのは気のせいだろうか。


「こほんっ、お見苦しい所をお見せして申し訳ございません」


 取り乱したエレノアは俺たちに向かって優雅にお辞儀をした。

 軽く自己紹介をしたあと俺らに訊く。


「奏多様、今回はどうされましたか?」

「俺らの装備を見繕ってほしくてな。いま大丈夫か?」


 俺の後ろにいた少女二人に笑顔を向けるエレノア。


「可愛らしいお嬢さんですね」


 照れる二人。

 エレノアは二人の身なりを確認したあとにこう言い放った。


「一人は魔法の杖。もう一人は……身体の骨格を見るに、格闘が得意といったところでしょうか?」

「私たちのことどうして分かるんですか!?」


 驚く芽衣と暗女。


「長くこの業界にいると、人目見ただけでその人がどんな戦闘をするのかすぐわかります」


 天使のような笑顔でエレノアは言う。

 ずっと最前線で探検家たちを見ていたから人目みただけで分かるんだろう。


「お任せください。お二人の装備はこちらでしっかりお預かりさせていただきます」

「その前にエレノア、このアイテム装備の強化に使えないか?」


 俺は、ワイバーンを倒した時に手に入れた「ワイバーンのウロコ」をエレノアに手渡した。


「奏多様……本当によろしいのですか?」

「何か問題でもあるのか?」

「はい、売ると一億円ほどいたしますが……本当に装備の強化に使ってよいものかと……」


「「「えっ!?!?」」」


 皆が一斉に驚く。そんなにレアなアイテムだったのかよ……。

 さすがワイバーンのウロコ。


「あぁ、問題ない。強化に使ってくれ。今日はそのために来たんだから」

「か、奏多さん! いいんですか? 一億円なんですよ! もうすこし真剣に考えたほうが」

「だ、大丈夫だ、問題ない……」


 俺は震える手で、ウロコを渡す。


「一億円……一億円……一億円……一億円……いちお……」


 背後で暗女が放心状態になっている。


「かしこまりました。それでは三人の装備にこちらのワイバーンのウロコを使用させていただきます」


 俺は懐に携えた村正も一緒に渡す。


「村正ですか。奏多様が受け継がれたのですね」

「あぁ、こいつにはお世話になってるしな。メンテナンスを頼むよ」

「かしこまりました。ちなみにこちらの装備も値打ちものなんですよ」

「そうなのか?」

「はい、村正は海外のダンジョンのレアアイテムで作られた装備なんです」

「へぇ~、いい装備なのはなんとなく分かってはいたけど、それほどとは……」

「そうですね……。売ると十億程いたしますね」


「「「えっ!?」」」


 三人がまた同時に驚く。


「雅様からお話されてませんか?」

「いや、知らない」


 そんなにお高いものだったのか。家でたまに踏んづけることがあるからこれからは大事に扱わないとな……。


「十億円……十億円……十億円……十億円……じゅうお……」


 また暗女が放心状態になっている。

 これ以上お金の話はやめておいたほうがいいだろう。


「エレノアさんのお店、とても不思議な感じがします。なんていうか武器屋の感じが一切しないというか……とても落ち着きます!」


 芽衣はお店の中を見渡しながら口を開いた。

 武器の他にも、紅茶が飲めるスペースや優雅な音楽が流れていて不思議に思ったのだろう。


「お褒めいただきありがとうございます。武器屋って聞くと、むさくるしい印象がずっとあったので、武器を見るだけじゃなくて、カフェみたいにくつろげる空間を作りたいと思いまして、このお店を始めたんです」

「たしかに、女性の人も入りやすくて素敵なお店ですね! 私、気に入りました!」

「なんか別世界に来たみたいな……不思議な感覚で、私も好きです……」


 芽衣と暗女は笑顔で答える。

 それを見て、微かにエレノアの頬が赤くなった気がした。連れてきて正解だったようだな。


「芽衣様、暗女様、ありがとうございます」


 そして、紅茶が三つテーブルに並べられる。


「どうぞ、お召し上がりください。武器の強化にはしばらくお時間がかかりますので……」

「ありがとう。エレノア」

「ごゆっくりおくつろぎくださいませ、ご主人様」


 エレノアは天使のような笑顔を浮かべて呟くのだった。

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