第7話 奏多、お腹を満たす
その後、俺たちは近くのファミレスへと向かった。
「い、伊原さん、Aランクなんですね。すごいです」
「芽衣でいいよ! 私たち同い年だし」
「あ、ありがとう……芽衣ちゃん……」
「ふふ、宜しくね。暗女ちゃん」
最初はどうなるかと思ったが、話をしていくうちに仲良くなっていった。やはり二人を合わせたのは正解だったようだ。
「それにしても……」
すると、芽衣は自分の胸に手をあてながら暗女の胸を交互に見る。
「芽衣ちゃん……ど、どうしました?」
「同い年なのに……どうしてこんなに違うの……」
ボソッと呟く。芽衣の瞳に光が無くなっている気がするが、気のせいだろうか……。
「今日は俺の奢りだ! みんな好きな物頼んでいいぞ」
「えっ、いいんですか!?」
暗女が驚く。
明日には配信の収益が入るし三人分の昼食ぐらい余裕だ。
「お腹ペコペコです! 暗女ちゃんは何食べる?」
「えぇ、ど、どうしよう……」
すると、暗女はまるで子供のように目を輝かせながらメニュー表を見つめた。
「ハンバーグ……いや、オムライスとグラタンも捨てがたいなぁ……う~ん、こんな機会めったにないし、どうしよう……」
暗女は配信と探検家の収入をすべて家に入れてるって前に言ってたし色々大変なんだろうなぁ。
――そして考えること十分。
俺はミートパスタ。
暗女はハンバーグ。
芽衣はオムライスを注文。
「そういえば、奏多さんはどうして探検家になろうと思ったんですか?」
芽衣がおもむろに訊いてくる。
「たしかに……私も、気になります」
二人の目線が俺に向く。
そういえばまだ二人には言ってなかったか……。
「探検家ってさ、ヒーローみたいじゃないか?」
「「ヒーロー?」」
「昔の探検家を特集する番組があってさ。でかくて強そうなモンスターと戦ってるその姿がヒーローみたいでさ。それからかな探検家を目指すようになったのは」
その時だったっけ、雅さんと出会ったのは。
「たしかに、困ってる人を助けてるって意味ではヒーローと似てますね」
「今となっては恥ずかしいけどね「ヒーロー」みたいだって」
「そんなことないですよ~! 子供っぽくて可愛いじゃないですか」
芽衣が微笑む。
「配信はどう思ってるんですか?」
暗女は口を開いた。
「すごい楽しいよ。たくさんの人に応援されるのって嬉しいし。もっと配信者として有名になりたいなとも思うようになってきた」
「奏多さんってすでに海外でも有名ですし……これ以上有名になったら外歩けなくなっちゃいますよ!」
「たしかに、それは困るな……」
またあんなに囲まれるのは正直困る。
ファンサもどうしたらいいか分からないし……。
「す、すごいです……私、そんな志なんて一つもないのに」
俯きながら呟く暗女。
「暗女は家庭を養うために頑張ってるんだろ? もっと自信もっていいぞ」
「そうそう! 暗女ちゃんはすごいよ! 一日に何件も依頼を受けてるって聞いたし! それって簡単にできることじゃないよ!」
「そ、そうかな……」
暗女は頬を染めた。
照れているようだ。
「お待たせしました~」
ウェイトレスさんによって食べ物がテーブルに並べられる。
キラキラとした表情でハンバーグを見つめる暗女。
「た、食べていいんでしょうか!」
「どうぞ、遠慮なく」
「いっ、いただきます!」
暗女は勢いよくハンバーグを口に運んでゆく。
「ん~! こんなに美味しいハンバーグ、初めて食べました!」
子供のようなキラキラとした笑顔を浮かべる暗女。
「ごめんねみんな……私だけこんなに美味しいもの食べちゃって……」
突如暗女が何もない空間に謝り出した。恐らく家族に向けてだろう。
「暗女ちゃん、食レポとかしたら視聴者さんも喜ぶんじゃない?」
すると、幸せそうに食べる暗女を見て、芽衣が提案する。
たしかにいい考えかもしれない。
「いいアイデアかも、いい食べっぷりだし。幸せそうな暗女を見たいって人もいると思うよ」
「そ、そうですかね……」
暗女が照れた表情をした。
今度はもっといいお店に連れてってあげよう。
それぞれが食事をしている中、俺は、ずっと気になっていたことを訊いてみることにした。
「そういえば、二人の装備はどこで買ったんだ?」
「私はお父さんのお古を使ってます。買うと高いので」
「私も……お金がないので、中古のやつを買いました……それがどうかしたんですか?」
やっぱりそうか。
二人と出会った時に装備に年季が入っているのが気になってはいた。
これはいい機会かもしれない。
「食べ終わったら武器屋に行こうと思ってな」
「「武器屋?」」
二人が目を合わせる。
息ピッタリだなこの二人。
「せっかくなら二人の装備を揃えてダンジョンに潜りたいと思ってさ」
「いいですね! 私、武器屋行ったことないので楽しみです!」
「あの……装備ってそんなに大事なんでしょうか?」
暗女がつぶやく。
「ダメだぞ暗女、探検家としていいパフォーマンスを発揮するにはいい装備を整える必要があるんだ」
これは師匠から教わったことだ。
「そ、そうなんですね……! 勉強になります!」
暗女が勢いよく頷き、メモをし始めた。すごい勉強熱心だな。
モンスターと戦ってる最中に装備が壊れるなんて事故もよくあると聞く。
二人には怪我をしてほしくないしな。
そんなことを考えていると、暗女が何かを言いたそうにもじもじしているのが目に入った。
「どうしたんだ?」
「あ、あの……奏多さん、デザート頼んでいいですか?」
「私もいいですか?」
芽衣と暗女が申し訳なさそうに言う。
「もちろんいいよ!」
断る理由はない。二人が仲良くご飯を食べているのを見るとこっちも幸せになってくるし。
「『トリプルワンダフルエレクトリックパフェ』と『スーパーウルトラエキセントリックシャイニングパフェ』になりまーす! ごゆっくりどうぞ~!」
「で、でかい……」
二人の顔が見えないぐらい大きなパフェがテーブルに並べられた。
「奏多さん、はい、あ~ん」
芽衣が笑顔でスプーンを向けてくる。あ~んの合図だ。
人の目があるから恥ずかしいが……。
――パクリ。
「美味い」
「えへへっ、良かった!♪」
満足な表情を浮かべる芽衣。
すでに芽衣が口を付けたスプーン。まずい、間接キスをしただけなのにあの時のキスを思い出してしまう……。
「ど、どうしたんですか?」
小首を傾げる芽衣。
落ち着け奏多、変に意識するな。
深呼吸をし、平静を装う。
それにしても、さすが『トリプルワンダフルエレクトリックパフェ』だ。そんじょそこらにあるパフェとは味が違う。
「わ、わたしも……奏多さん! はい、あ~ん」
すると、対抗心が出たのか暗女もスプーンを向けてきた。
――パクリ。
「美味い」
さすが『スーパーウルトラエキセントリックシャイニングパフェ』だ。そんじょそこらにあるパフェとは味が違う。
「むー! も、もう一回!」
その様子を見ていた芽衣がまたあ~んをしてくる。
さすがに断れないので潔く口に運ぶ。
――パクリ。
「あっ! ずるいです! 芽衣ちゃん! 私ももう一回」
――パクリ。
「暗女ちゃんこそ! 私も……!」
次から次へとパフェが口に運ばれてゆく……。このやりとりが何回続いただろうか。
その後俺は、『トリプルワンダフルエレクトリックパフェ』と『スーパーウルトラエキセントリックシャイニングパフェ』を一人で平らげたのだった。
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