第2話 奏多、暗女の強さを知る
『ガルウウウウウウウウウ』
ケルベロスが突進してくる最中。
彼女は一呼吸したあと。杖を頭上に掲げ唱えた。
『
暗女は低級魔法、ファイアボールを何もない空間から出力した。
食らったら少しの火傷で済む程度の魔法だ。あれではさすがに倒せない。
「えいっ!」
暗女はそれをケルベロスめがけて攻撃を放った。
『ガルウウウウウウウウウ』
ケルベロスもその攻撃では致命傷にならないと感じたのか、突進をやめようとしない。
「さすがにまずいか……」
俺は懐の木刀に手をかける。
もし、暗女がミスしてもおれがいつでも倒せるように。
『ガルウウウウウウウウウ』
すると、ケルベロスの頭上に炎弾が当たると同時に
ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
低級魔法とは思えない火力と轟音が辺りを包み込む。
"火力おかしすぎて草"
"暗女ちゃん本当にBランクなの!?"
"相変わらず凄い威力だ……!"
"暗女ちゃんのスキル凄すぎだろ!"
"エグイって!"
「なんだこれ!?」
思いもよらない威力に俺の身体が吹き飛ばされそうになる。
そして、ケルベロスは丸焦げになり無力化された。
「あのケルベロスを1撃で……」
すると、暗女はその場で
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロ」
二日酔いのおじさんみたいに虹色の液体を口から吐いていた。
「暗女っ! だ、大丈夫か?」
突然のことで驚く……。
年頃の女の子がこんなに吐いてるの初めて見た。
「うげぇ……私、スキルを使うと吐いちゃうんです。しゅみません……」
涙目に口を拭う暗女。
魔力の出力を数倍に膨れ上げるスキルみたいなもんか……。
魔法一回で吐いてるのを見ると、元々の魔力量が少ないか力をコントロールできなくて、許容範囲をオーバーしてしまってる感じだろう。
「吐くなら無理しなくてもよかったのに、あれぐらいなら俺が……」
「いえっ、わたし、もっともっと強くなって……オロロロロロロロロロロロロロロロロ」
「ええええええええええええええ!!」
その後、吐き続ける暗女の背中を優しくさすった。
◆ ◆ ◆
「す、すみません。私、奏多さんにご迷惑を……」
なんとか落ち着きを取り戻した暗女。
ダンジョン内はケルベロスの騒動でほとんどいなくなっていた。
「大丈夫だけど、すごい威力だったな」
「私のスキル。一日一回が限界なんです」
「どういうことだ?」
すると暗女は悲しげに目を伏せ語りだした。
「私のスキルは魔力の出力を何倍にも膨れ上がらせることができるんです。簡単に言うとバフです……ですが、スキルを使うと、身体が耐え切れず気分が悪くなってしまうんです」
「ずいぶんリスクがあるスキルだな……」
だから、あんなに吐いてたのか……。
「暗女は、どうして探検家になろうと思ったんだ?」
「父が他界して、母親と一緒に暮らしてたんですが、その母も病気で寝込んでしまって……私が五人兄弟の一番上で、私が頑張って家族を楽させてあげなくちゃと思って……」
「家族を養うために……大変だなぁ」
家族思いのいい子だ。
ふと、暗女の配信を覗くと、同接十万人を超えていた。
これは超大手配信者の数字だ。
「それにしても凄い同接数だな。これなら収益で食べていけるんじゃないのか?」
「それが……」
暗女はまた悲しげに俯く。
「私、スキルを一回使うごとに吐いてしまうので、頻繁に配信がBANになってしまうんです……」
「な、なるほど……」
「そのおかげで一定のファンはついてくれているんですが、複雑な気持ちになるんですよね」
たしかに、ファンはついているとはいえ、
吐いてる姿が面白いからという理由だと思うと複雑な気持ちになるな。
「人気になるのは嬉しいです。たくさんの方に見ていただいて、でも……私、このさきやっていけるか不安で……」
バズった理由が悲しすぎる……。
頻繁にBANされるから収益が安定しないのか。
自分のスキルによって苦しめられているようだ。
"泣ける……"
"俺は暗女ちゃんのこと応援してるから!"
"お前ら全員今から暗女ちゃんのチャンネル登録しにいくぞ"
"暗女ちゃん!チャンネル登録したぞー!"
"通知も音にした!だから頑張って~!"
コメントが暗女を応援するコメントでいっぱいだ。
優しくて家族思いなところが視聴者に受けてるんだろうな。応援したくなるというかそういう気持ちにさせてくれる配信者だ。
「ほらっ! コメントも暗女のことを応援してるよ」
「あっ……えーっと、ありがとうございます……! が、頑張ります」
微笑を零す暗女。
「俺もチャンネル登録しておくね。良かったらまた一緒にダンジョン探索しようよ」
「えっ……! 私、なんかといいんでしょうか……?」
「もちろん。先輩配信者としていろいろアドバイス聞きたいし」
「先輩なんて……そんな……」
暗女は頬を染めて俯いたあとにふたたび口を開いた。
「そ、そうだ! 奏多さん、お礼にこれを……」
すると、暗女はゴブリンの爪十個を俺に手渡してきた。
「いいの?」
「はっ、はい……ちょうど探してるっておっしゃってたので……」
「ありがとう暗女!」
俺はそっと暗女の頭を撫でた。
「えへへ……お役に立てて嬉しい……です」
照れながらポツリとそう言った。
"おーい!芽衣ちゃんが見てるぞ~!"
"芽衣ちゃん激おこだろこれ"
"知らない間に女を惚れさせる男"
"なでなでされてる暗女ちゃんかあいい"
コメントが芽衣のことでいっぱいだ。
何を言ってるのか分からないのでとりあえず無視する。
「えーっと、その……ずっと思ってたんですが」
すると暗女がおもむろに口を開いた。
「ん? どうした?」
「奏多さんはどうして……その、そんなダサい恰好をしてらっしゃるんでしょうか……?」
「えっ……」
唐突にダサいと言われ思考停止する。
もしかして、暗女もそう感じるのか……。
「も、もしかして、何かの企画をされてるとかでしょうか?」
そう言いながら暗女は小首を傾げた。
「……まぁそんなとこ?」
ファッションセンスを磨くことを決意した一日だった。
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