第三章 奏多の日常
第1話 奏多、根暗魔法使いと出会う
俺はいま、小銭稼ぎをするためにとあるダンジョンに来ている。
依頼内容はゴブリンの牙十個を集めるというもの。
「なにあの人の恰好……」
「木刀持ってるけどいくつだよ(笑)」
「卒業旅行の帰りか?」
相変わらず周りの目が痛い。
俺はいま、星型のサングラスに黒いニット帽をかぶり。木刀を携えている。なぜこんな恰好をしているかというと、
ワイバーンでバズって以降、気軽に外に出れなくなってしまったためだ。
高橋の助言通り、変装をしてダンジョンにいるわけだが……。
「みんなはどう思う? そんなにおかしいか?」
コメント欄に目を通す。
"おかしいな"
"ファッションセンスなさすぎだろ"
"収益で稼いでるんだからいい服着ろよ"
"ブランドものに染まってる奏多は見たくない気持ちもある"
"わかりみが深い"
"奏多はこのままダサい恰好でいてほしい"
"ってか配信してる時点でお前ってバレバレだけどなw"
やはりダサいらしい。
一応俺ができうる最大限のおしゃれをしたつもりなんだが……。
ちなみに高橋に今日の私服を写真で送ったら。
『お、おう』
って、なんともいえない返事が来たから、オシャレではないことは分かってはいた。
「今度からはちゃんとした服を買いに行ったほうがいいな」
「や、やめて……わ、わたし……」
そんなことを呟きながら歩いていると、ちょうど目の前で女性探検家がナンパされているのが目に入った。
長い杖を携え、黒いワンピースと帽子を身にまとっている。年齢は芽衣と同い年ぐらいだろうか。
「君いくつ~? 可愛いじゃん」
「わ、私……その、今日は依頼をこなしに……その……」
「まじで~? それじゃあ俺らと一緒にいこうよ。手取り足取り教えてあげるからさ~」
女性がヤンキーたちに囲まれおずおずとしている。
困ってるみたいだし助けるか。
「おーい。お前ら、この子が困ってるじゃないか」
「あぁ? 誰だよこのダサいおっさん。お前の知り合い?」
「知らねー」
おっさんとは失礼だな。
俺はまだぴちぴちの25歳だと言うのに……。
「てめー。気安く話しかけてんじゃねーよ。調子に乗ってるとぶっとばすよ? オラオラ!」
ヤンキーは俺の眼前に拳を突き立て煽ってくる。
「めっちゃビビってんじゃんウケる~www」
「ギャハハ! もしかしてちびっちゃった?」
「あ、あの……えっと……」
その様子を見ていた魔法使いの女性は心配そうな目で俺を見ている。
「大丈夫。追っ払ってあげるから」
「聞いた〜? 追っ払うだってよ。その木刀で?」
「ウケる~やってみろよ。ば~か!」
こいつら埒が開かないな。
俺はいつものように居合いの構えを取る。
『剣技――――
「こいつ奏多の真似事してるよww」
「居合い!! 時雨!」
「ネーミングセンス皆無だなお前」
黙って聞いていれば……これは俺が一生懸命考えてんだからな!
怒りをそのまま木刀に乗せて俺はヤンキーたちに斬撃を繰り出す。
もちろんトロールみたいに真っ二つにはしない。
「なっ! なんだこれ!?」
「服が……!?」
すると、ヤンキーたちの衣服がみるみる剥がれ落ち最終的にはパンツ一丁になる。
「てめぇ! 覚えてろよ……!」
「クソォ!」
ヤンキーたちはそそくさとダンジョンから姿を消していった。
「まったく、ダンジョンは出会いを求める場所じゃないってのに……」
「あ、あの……」
心配そうにその様子を見ていた魔法少女が口を開いた。
「た、たすけていただきありがとうございます……」
おずおずと俯きながらお礼を言う。
「あの……もしかして、奏多さんですか?」
まぁ、あの構えを見たら気づくよな……。
「バレちゃったか」
「わ、私……ファンなんです……」
「ありがとう」
手を差し出してきたので、軽く握手を交わす。
「私、
どっかで聞いたことがあるような……。
"暗女ちゃんだ! 俺チャンネル登録してるよ!"
"コラボ配信きたー!"
"陰キャ配信者として最近人気急上昇中の人だよね"
"おどおどしてて守りたい感じがたまらん"
"暗女ちゃんと芽衣ちゃん派閥が出来上がるなこれ……"
コメントが盛り上がっている。
思い出した。たしか、最近ノリに乗っている配信者ランキングに入ってた人だ。
「そんな有名な人と会えるなんて光栄だな」
「そ、そんな……私なんか……暗いキャラクターが珍しいだけです……」
すぐ俯いて指と指をツンツンさせる暗女。
配信者って、目立ちたがり屋がやってるイメージがあるけど、こういうタイプもいるんだな。
「そ、その……アクアブラスト」
「アクアブラスト?」
「ワイバーン戦の時に見た……あの水魔法、凄かった……です」
たしか、ワイバーンの炎の息吹を防ぐために出したっけか。
「奏多さんって、魔法の心得があるんですよね」
「いや、俺って元々魔法のセンスは皆無なんだ」
「そうなんですか……? でもどうやって……」
「
俺は魔力がないため基本的には魔法攻撃は扱えない。
だけど、俺はスキルリアライズによって、不可能を可能にしているという訳だ。
ちなみにほとんどの魔法はある程度使える。
「そうだったんですね……」
「暗女ちゃんはどういうスキルを持ってるの?」
「暗女ちゃん……」
頬を染めながら俯く暗女。
いきなり初対面で名前呼びは失礼だったか……。
「悪かった……えーっと、細川――」
「逃げろぉぉぉぉお!」
「きゃああああああああああああああ」
「なんでこんなところにいるんだよ!」
突如、周りにいた探検家が悲鳴をあげながら一斉に逃げ出す。
「な、なんだ?」
『グルルルルルルルルルルルルルルルル』
獣のような唸り声。
あれはケルベロスだ。たしかケルベロスはAランクモンスターだったはず、三つの頭が特徴的で速さもあるやっかいなモンスターだ。
「次から次へと……本当はゴブリンを探してるんだけど、しょうがないな」
俺は、懐に携えた木刀を引き抜こうとするが……。
「ま、待ってください……!」
暗女がそれを止める。
「どうしたんだ?」
「私に……やらせてください……」
自信に満ちた表情を浮かべる暗女。Bランク探検家じゃ荷が重い気がするが、本人がそう言うなら任せてもいいかもしれない。
『グルルルルルルルルルルルルルルルル』
すると、ケルベロスは涎を垂らしながら暗女目がけて突進しだした。
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