第7話 奏多、強さの秘密を語る
「出会ったのは十年前。ちょうど俺がリアライズのスキルに目覚めた頃だったよ」
スキルに目覚めた当初。俺は水を塩水にするぐらいのしょぼい力しかなかった。
周りからは「戦闘向きじゃないから探検家は諦めろ」って言われて落ち込んでたっけか。
――そんな時、彼女は現れた。
◆ ◆ ◆
『やぁ坊や。この近くにダンジョン委員会があるって地図に書いてあるんだけど、どこだか分かるかな?』
金髪ポニーテールに目元にはサングラスをつけ、下はダメージジーンズ。
第一印象は綺麗でかっこいいお姉さんって感じだった。
『お姉ちゃん誰?』
『あたしの名前は雅、探検家をしてる』
そのお姉さんは自信満々に告げた。
『えっ! 雅さんってあの有名な探検家の!』
『あはは! やっぱりお姉さん有名人か~サングラスで顔隠してるんだけどもしかして、オーラ出ちゃってる?』
『あっ、でもこんな有名人がここにいるわけない! お姉さんもしかして、最近流行ってる探検家詐欺ってやつだろ! 探検家のフリをして悪徳なビジネスをしてるっていう……絶対そうだ!』
『警戒心が強い坊やだね……ほらっ! これ見なよ』
掌には探検家認定証。
そこにはしっかりと世界に一人しか称号を許されないSSSランクの探検家だという印が記載されていた。
『す、すげぇ! 本物の雅さんだっ!』
『しー! 大きい声出すんじゃないよ。あたしがここにいるってバレたくないんだから!』
『ご、ごめん……』
『そんなことより坊や。さっきから浮かない顔だけどどうしたんだい? もしかして好きな子にでも振られた?』
『違う。実は俺、スキルに目覚めたんだ』
俺は落ち込んでいる理由を簡潔に話した。
『なるほど、だから坊やは落ち込んでたってわけか。でもね……君とその周りの人たちは勘違いをしている』
『えっ! 勘違い?』
『たしかに傍からみたら地味なスキルかもしれないけど、スキルも使い方によってはとんでもない武器になったりするんだ』
『そ、そうなの!?』
『あぁ、こんなつもりはなかったけど、面白い子に出会っちゃったな~』
雅さんは不敵な笑みを浮かべた後に俺に向かってこう告げた。
『ねぇ坊や。あたしと一緒に来ないかい?』
『お姉さんと?』
『あたしがスキルとはなんなのか一から叩き込んであげる』
それから俺は師匠に弟子入りをした――。
師匠のスキルは『超パワー』魔法や呪術など特殊なスキルは一切使わない。というか使えない。
その拳と体術でSSSランクまで成り上がった彼女は『脳筋の姉御』という異名を持つ。
『これであたしの5089勝0敗だね。奏多』
『ったく、また負けか……』
ただその単純なスキル『超パワー』に俺はなすすべもなく膝を付くしかなかった。
『落ち込むことない。いまのは悪くなかったよ』
師匠からはダンジョン内での戦い方と、スキルの応用についてしつこいぐらいに叩き込まれた。
時には厳しく、時には優しく。とても刺激的な毎日だった。
――そんな日々を過ごすこと、十年後のある日。
『奏多、あんた卒業で』
唐突に告げられた。卒業という二文字。
『もうすぐ、探検家のランク試験があるでしょ? ちょっくら行ってきなよ』
『さすがに急すぎるだろ! 俺はまだあんたに一度も勝ってないのに……』
『奏多、気づいてないかもしれないけど、あんたはもう探検家として高いレベルになってる。だから、あたしが教えられることはなにもないよ』
『そんな……』
俺はただ悲しかった。十年間ずっと一緒にいた人から別れを告げられたことに。
『まぁ、卒業っていうのは建前。実は政府からの直々の任務でね……しばらくは海外に行かなきゃいけなくなったんだよ』
『任務? 珍しいな……。いつ帰ってくるんだよ』
『分からない。なにせ海外に呼び出すぐらいだからね。今回は長い任務になりそうだよ』
『そっか……』
『なんだい? 奏多、暗い顔して、ずっと探検家に憧れてたんじゃないの?』
『ま、まぁそうだけど、あんたに一度も勝てないのに俺、探検家としてやっていけるのかなって思って……』
『あははっ、大丈夫大丈夫! いまのあんたならSランクは余裕余裕! 気張っていきなよ』
雅さんは高らかに笑った。
そして、
「あぁ、そうだ。これ持っていきな」
渡されたのは雅さんの愛刀『村正』と一つの茶封筒。
『あんたにあげる。卒業祝いだと思っていいよ』
『村正じゃないか、大事なもんだったんじゃないのかよ』
『念の為にずっと持ってたけど、一度も使う機会なかったからね。ほらっ、あたしなら拳で十分だから!』
と、師匠は笑いながら拳を突き上げ自慢の筋肉を見せつけた。
『この封筒は?』
そこまで厚みがないが何が入っているんだろう。
『お金だよ。それで少しの間は生活していけるはずさ』
『意外と気が利くな』
『まぁ、あたし意外と稼いでますから』
えっへんと、腰に手をやりドヤ顔を浮かべる。
『あたしの弟子なんだからちゃんと活躍してよ~?』
『はいはい、分かりました』
クスりと笑った後、俺は背筋を伸ばし師匠に深々とお辞儀をする。
『師匠。十年間お世話になりました!』
『あぁ、頑張りな!』
こうして師匠は政府からの任務を遂行するために海外へと飛び立っていった。
『さて、俺も頑張りますか~!』
自分に気合いを入れながら、師匠から渡された茶封筒の中を見る。
そして俺はその中身に絶句する。
『五万円……』
こうして、俺は四畳半のボロアパートに住みつくはめになるのだった。
◆ ◆ ◆
――そして、いまに至る。
「雅さんってあの雅さん!? 探検家としてこれ以上の逸材は現れないとされているあの!?」
芽衣はポカンと口を開いて驚いた。
可愛い顔が台無しだ。
"雅さんってあのグラマー探検家ランキングで1位を取った人だよな! 俺写真集持ってるぞ!"
"カナタの強さの秘密が垣間見えたな"
"師匠が雅さんなら嫌でも強くなるな"
"俺、雅さんのファンなんだよなぁ羨ましい"
コメントが盛り上がっている。
ってか写真集なんて出してたのか……恥ずかしい。
「すごいです! カナタさんの師匠って凄いビッグな人だったんですね!」
「たしかに探検家としては凄い人だけど、それ以外のことはダメダメだったよ。炊事洗濯は全部俺任せだし。嫌いな食べ物は多いし。部屋はゴミ屋敷。ぷーたらで時々政府の仕事をさぼってたぐらいだからね。ほんと参っちゃうよ」
実際あのぷーたらの師匠が任務のために本当に海外に行ったかどうかも怪しい。
「ふふ、カナタさんお母さんみたいですね」
芽衣がクスりと笑った。
「もしかしたら今の配信も見てるかもしれませんよ! カナタさん今、世界でも話題になってますし!」
「それは困るな。さっき師匠のことディスったばっかだし……」
「ふふっ、それもそうですね」
「師匠元気にしてるかな……」
俺は師匠との修行の日々を思い出しながらそう呟いた。
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