第5話 奏多、ストレス発散

 俺のスキルは妄想を現実にする力『現実化リアライズ

 たとえば、おもちゃの剣があるとする。そのおもちゃを通常の剣の鋭さにすることは普通はできない。

 だが俺はそれを可能にする。

 おもちゃの剣を「通常の剣」と強く妄想することによってそれを現実化する。

 このスキルはイメージが大事だ。頭の中でそうなると強く思うことによって現実化される。


『ガアアアアアアアアアアアア!!』


 ワイバーンは苦しみながらも、最後の力を振り絞り炎の息吹を俺に向けて繰り出してきた。

 どんなものでも焼き尽くすワイバーンの息吹、食らったらひとたまりもない。一瞬で黒焦げだろう。


 俺は妄想する――


『アクア魔法を手から放出するイメージを妄想する。ちなみに最大出力』


現実化リアライズ――アクアブラストッ!」


 俺はワイバーンに向かって手を伸ばす。

 そして次の瞬間、何もない空間から水魔法が最大出力で放出され、炎の息吹と水魔法がぶつかり合う。


 ちなみに技名は俺が考えた。


『グガアアア!?』


 ワイバーンは素っ頓狂な表情を浮かべている。


"ワイバーンの炎の息吹を受け止めてる!?"

"マジかよ……"

"どんなものでも焼き尽くすワイバーンの息吹だぞ!?"

"トロール倒すあたりから見てたからもう何が起こっても驚かなくなってしまった"

"それなwww"


 炎と水の押し合いは一瞬で水の出力が勝った。


「もうそろそろ日が昇るころだし。終わりにするか。あと、飽きてきた」


 炎の攻撃を防いだ俺は、すぐさま村正を構える。


『奥義―――轟ッ!』


 油断しているワイバーンの眼前まで一瞬で近づく。

 そしていままでの鬱憤をワイバーンの首元目がけて斬撃を放つ。






「ダンジョン委員会し〇えええええええええええええええええええ!」






 閃光が迸り、目に見えないほどの斬撃がワイバーンの首元に直撃する。

 首が吹き飛び、宙を舞う。


『ウグゥゥ……ゥ』


 斬られたことに気づいていないのだろう。ワイバーンは何が起こったか分かっていないようだ。

 数度瞬きをしたあとにワイバーンは絶命した。


「SSモンスターもこんなもんか……初めて戦ったけどなんとかなったな」


 わざと攻撃を食らってはみたが正直いたくもかゆくもなかった。これならある程度高難易度のクエストはこなしていけるな。

 自分の中で手ごたえを感じていると、ワイバーンの懐からキラキラと光るものがあることに気づく。


「これはワイバーンのうろこか? 綺麗だし一応貰っておこう」


 それをポケットに入れ、大きく背伸びをする。


「あー! スッキリした! ワイバーンも倒せたし、なんか綺麗な鱗も手に入ったことだし帰るか!」


 そんなことを呟きながらコメントに目をやると文字化けしていた。


"縺ァ縺�(マジで倒しやがった……)"

"縺ァ縺�(世界初じゃね? Dランクがワイバーン倒したの)"

"縺ァ縺�(ちゃっかりドロップ率0.0001%のワイバーンのウロコ拾ってて草)"

"縺ァ縺�(それ売ったら1億するぞ……)"

"縺ァ縺�(ま?)"

"縺ァ縺�(ついに文字化けしだしたw)"

"縺ァ縺�(流れてるコメントが読めねー!)"

"縺ァ縺�(てかダンジョン委員会ディスってて草)"

"縺ァ縺�(ちょっと同接5000万人いってるんだけど)"

"縺ァ縺�(これ本人は気づいてるの?)"

"縺ァ縺�(たぶん、バグだと思われるな)"

"縺ァ縺�(これ放送事故じゃね?)"

"縺ァ縺�(色々ツッコミどころありすぎてどこから突っ込んでいいのやら……)"


 同接が5000万人以上を突破しているが、これも不具合だろう。Dランク探検家の配信にこんなたくさんの人が来るはずないし。

 これは後で運営に報告だな。


「さてと、とりあえず帰るか……」


 俺は先ほど下ってきた大穴の壁を蹴り、また反対側の壁を蹴りながら昇っていく。


「帰ったら何食べようかな~」


"縺ァ縺�(忍者やんけwww)"

"縺ァ縺�(さすがにそれは草)"

"縺ァ縺�(Japanese NINJA)"

"縺ァ縺�(海外ニキ来たー!)"

"縺ァ縺�(まあこんぐらい同接が多かったら来るよなw)"

"縺ァ縺�(ご飯の献立考えながら登ってて笑う)"


 軽快にかけること数分で出口に到着。

 外は既に朝日が昇り始めていた。どうやら結構な時間ダンジョンの中にいたらしい。


 配信時間は1時30分。初配信にしては結構やった方だろう。


「とりあえず、今日の配信はここまでにしておこうと思います。少ない人数だけど見に来てくれてありがとう! またやりまーす」


 笑顔でスマホのカメラに向かって手を振り、配信の終了ボタンを押す。


「これでよしっと……」


 初配信にしては意外とたくさんの人に見てもらえた気がする。

 それに楽しかった。ストレス発散もできたし。


「反省点は、もっとコメントに気を配りながら戦闘することだな……ほとんど文字化けしていて読めなかったけど……」


 まぁ、終わりよければすべてよしだな。


「とりま、今日は初配信記念に帰ったら牛タンだ!」


 俺は大きな達成感を感じながら家路へと向かうのだった。

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