My FLOWER
御野影 未来
第1話
「私の花みぃーつけた!ねぇ君私のパートナーになってくれない?」
お昼休み。ほとんどの人が昼食を終え、友達との会話を弾ませている時であった。
僕は1人教室の端の席に座って
本を読んでいた。ここが最初から決められていた席であって、ここがお気に入りというわけではない。
「ふへっ、?」
何もない平凡な日常であったはずなのに急におかしな会話が始まり変な声が出てしまった。
「えっと、君は確か、はかぜはるひさんでしたよね?」
「そう!葉っぱの葉に風、そして春に太陽の陽で葉風春陽!」
「とても自然に愛されていそうな名前ですね」
「同じ歳なんだから敬語はやめてね!花野井咲人くん」
僕の名前まで覚えてくれてるんだ。自分で言うと悲しくなるが、僕はクラスの中でも目立たない方で友達も多くない。なので、クラスの人たちでも僕の苗字を知っていても名前まで覚えている人は少ないと思う。
「パートナーって何?」
話の先が見えない唐突な質問すぎて聞き流そうと思っていたが、流石にインパクトのある質問すぎてつい聞き返してしまった。
「そのままの意味だよ。私のパートナーになってほしい。私の相棒にね!君は選ばれてしまったのだよ」
「具体的には?」
日々の生活に退屈していたので、なんだかワクワクしてしまった。
「それはね、ないしょ!早速だけど放課後空いてる?」
パートナーになる許可もしていないのになぜだか話が進んでいる気がする。
誘い方軽すぎない?
ふと周りを見てみるとひそひそと何か話している声が聞こえる。
あれって花野井だっけ?
葉風さんと放課後デート?!そんなに仲良かったっけ?
俺狙ってたのになー。
はるちゃん急に花野井くんのところ行くって言ってたけどまさかデートのお誘い?!
男女ともに僕たちに注目がいっているようだ。それもそのはず葉風さんは可愛い。
明るくて元気もあって、男女共に人気がある。
そんな彼女がクラスであまり目立たない僕とのデートを取り付けているのでみんな興味津々だ。
どんな返事が正解なのだろうか。
考えても仕方ない。だって僕の中で答えは既に決まっているのだから。
「空いてるよ。そんじゃまた放課後ってことで」
そこでちょうどお昼の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
僕自身16年という短い時間だが、ここまで人の誘いに胸を弾ませたことはない。
それは友達がいないからとか、葉風さんが好きだからという理由ではない。何に誘われているのかはわからない。だけど、パートナーという言葉が僕を呼んでいるような気がした。
その後の時間はパートナーという言葉で頭がいっぱいになって、授業が頭に入ってこなかった。
授業が終わった後直ぐに葉風さんは僕に再び声をかけてきた。
葉風さんは何も言わず僕の手を握り、小走りでどこかに向かい出した。廊下を歩いていた生徒は男子が女子に引っ張られているという様子に好奇な視線を向けている。
「葉風さん!そんなに急ぎ?ちゃんとついて行くから、手を離してもらってもよろしいでしょうか」
「おっと失礼、早く見せたいものがあったからつい。そして咲人、敬語は要らないって言ったでしょ?それと春陽でいいよ」
「わかったよ、は、春陽」
異性を下の名前で呼んだのなんて小学生ぶりだ。
春陽は僕の前を楽しそうに歩いていて、時々後ろを振り向いて僕がいることの確認をしてきた。
「着いたよ!」
随分と楽しそうに歩いていたので、どんな場所に行くかと心を弾ませていたが、目の前を見てみると何もない空き地であった。一体何の目的でここに来たのか想像がつかない。
すると春陽は急に静かになり、目を閉じて何かを始めた。
「大地に眠る命の滴よ。天よりふりし光は希望となりて、我らを包み込み、世界を癒やす安らぎと、世界を彩るシンボルへ」
彼女が歌い始めると同時に暖かな風が流れ出し、何もない空き地を柔らかな光が包み込み始めた。荒れた土地には緑が増えていき、そこには色とりどりなチューリップが咲き始めた。
僕はこの光景が夢ではないかと思いほっぺを摘んでみたが、当然痛くなり頬が赤くなった。
「─── 咲き誇れ ───」
春陽のこの言葉でその土地のチューリップは満開になった。
今、色とりどりにお花が咲いている場所には何もなかったはず。それなのにどうしてこんなにも美しい空間へと生まれ変わったのか不思議で、僕はこの光景に目を離さずにはいられなかった。
心地よい風が花の香りを運び安らぎを与えてくれる。
───これは魔法?────
「どう?すごいでしょ!」
春陽は僕の方を振り返り、屈託のない笑顔で見せた。
「美しい」
僕はただその一言が自然と漏れた。
「ありがとう!ってことでこれからよろしく咲人」
「はい、、あ、ちょっと待って」
危うくこの穏やかな空気感に流されてしまうところであった。主語が全く無いので、何がよろしくなのかがわからない。
「で、結局僕は何をすればいいの?」
春陽が何かすごいことをしてくれたが、今わかっているのは春陽のパートナーになるってことだけだ。
「え?これだけど」
「え?これ?どれ?」
「だからこれ!」
いや、コントかよ。
「まさかと思うけどこの魔法みたいなののこと?」
これ合戦が終わりそうにないので、僕はついに確信をついた質問をする。
「そうだけど」
春陽は僕に何をするのか、これでわかってるでしょ?と言わんばかりに返事をした。
一度は使ってみたいなと思うあの魔法を目の前で存在を認識してしまい、僕はワクワクした。
「来た、、、向かうよ咲人!」
「え?どこに」
春陽は僕の言葉に耳を傾けずに、僕の手をとって走り始めてしまった。お願いだから主語が欲しい。
僕は春陽のされるがままにどこかに向かい始めたのであった
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