第239話 君が敵にならないよう、全力を尽くすよ……
リューとヴェラが姿を消してしまったため、仕方なくドロテアも宿に戻った。そして、食事を取るために宿の食堂に向かったところ、そこで食後のお茶を飲んでいるリューとヴェラを発見したのであった。
「リュージーン、ここに居たのか? 勝手に居なくなるから驚いただろう」
「勝手に? 飯を食いに宿の戻ると言ったはずだが? ああ、放心状態でやっぱり聞こえていなかったか」
「う…むぅ、とにかく、丁度いい、食事をしながら話の続きを聞かせてくれ」
「俺たちはもう食事は終わったんだが」
「まぁそう言うな、そうだ、酒でも飲まないか? もちろん驕るぞ、美味い酒があるんだ」
「あら、いいわね」
「ヴェラは酒好きだよな……」
「まぁねぇ」
「尻尾を出すなよ?」
「…気をつけます……」
ドロテアが宿のバーから酒を運ばせ、三人で乾杯した。
「それで、二人はこの国には何をしに来たんだい?」
「観光だ」
「観光? この街にそんなに見どころがあるとは思えないが」
「この街というか、この国、だな。見聞を広げるために世界を見て回る旅をしているんだ。この国を見たら、次はまた別の国に行く」
「ギルドの記録を見たが、君は依頼を受けた記録も少ない。仕事もせず、ただ旅をしているだけなのかい? その旅の資金はどこから出ているんだ? 話を聞いていると、まるでどこかの王子が社会勉強をしているかのようだな。そうなのかい?」
「ただの平民だよ。金は足りなくなったら稼げばいい。今は、前の国でかなり稼げたのでな、余裕があるんだ、こんな宿に泊まれるくらいには、な」
「そうか、二人は夫婦なのか? 新婚旅行か?」
「いや、違う、そんな関係じゃない」
「姉弟よ」
「そうだったのか。しかし、何にも縛られる事もなく、のんびり観光旅行か、随分贅沢な話だな、羨ましい」
「リンジット様は宮廷魔道士なんでしょう? かなりの高給を貰ってらっしゃるでしょうに、こんな宿に泊まっているくらいだし」
「ドロテアと呼んでくれ。それと、宮廷魔道士 “長” だ。魔道士の中でも最上位の特級魔道士なんでね。まあ、それなりに給料は貰っているが、自由がないのだよ。金はあっても使う時間がない。だから偶に出掛けた時くらいは贅沢をする事にしてるのさ」
「宮仕えなんぞしたくないねぇ……自由が一番だ」
「私だってそうさ! …だが、そう許してもくれないのだよ、魔法学校を主席で卒業してしまったのでね」
「うわ、自慢ですね、長だの特級だの主席だのと、凄い凄い、凄いマウンティング」
「いやスマン、誂わんでくれ。君達だって、こんな高級宿に泊まれるって事は、さぞや腕がいい冒険者なのだろうね?
…だが、おかしいね、Fランクだと聞いたが、それだとそんなに報酬の良い依頼は受けられないのじゃないか?」
「別に冒険者ギルドで依頼を受けなくても、ダンジョンに潜って素材を売るだけで十分稼げる。あと、たまたま王族の依頼を受けたりしたので、その報酬に結構な額を貰ったりしたんでな」
「王族だと? どこの?」
「……ガリーザ王国とフェルマー王国だ」
「そこで、どういう経緯で王族から依頼を受けたんだい? ただのFランク冒険者が王族と繋がりがあるとは思えないんだが?」
「根掘り葉掘り訊くなぁ、答える義務はあるのか? 尋問の続きか」
「悪いね、堅い話になるが、国の安全保障として、疑惑がある者を簡単に放免する訳にはいかないんだよ、早く解放されたかったら、素直に答えてくれるとこちらも助かる」
「答えたくないと言ったら?」
「自由に旅を続けさせる事はできない……と言っても君ほどの実力があったら、誰も止める事はできないだろうが」
「一応言っておくけど、俺は自由が好きなんで、理不尽に俺を束縛しようとする相手には全力で抗う。それで国を滅ぼす事も厭わないつもりなので、覚えていおいてくれ」
「一人で国を相手にできる自信があると言うことか……まいったね、君のような存在は……一応聞くが、クーデターとか考えてるわけじゃないんだよね?」
「興味ない。俺はただ、旅の途中に立ち寄っただけさ……」(そう、この世界は、俺にとってはちょっと立ち寄っただけの場所だ……)
「敵対する意志がないなら安心したよ」
「そちらが敵対しない限りは、こちらもそのつもりはない」
「君が敵にならないよう、全力を尽くすよ……」
「……
…ガリーザ王国にはお転婆なお姫様が居てね。冒険者に憧れてたそうで、王宮を飛び出して冒険者になろうとしたんだよ」
「?」
「その時にお姫様が登録しようとしたギルドが、俺が所属してたギルドで、それなりにベテランだった俺が護衛兼指導係としてパーティを組む事になったというわけさ。王族とはそういう繋がりだ。
結局、一度ダンジョンに潜っただけで、お姫様はお家騒動で城に帰ったがね」
「ああ、ガリーザ王国は最近新しい女王が即位したんだったね……ってまさか、その女王と知り合いだって事か?」
「今やソフィも女王だ、俺と関わる事ももうないだろう」
「好きだったのか?」
「いや全然?」
「そ、そうか」
「この子は異性に興味がないのよ」
「え゛……同性と? いや、そういう人間も居るよな、うん」
「んなわけあるか! 男と女なら普通に女が好きだっつーの」
「えーいやだぁ、リューったらもしかして、アタシの身体見て欲情したりしてるのー?」
「姉に対してそんな感情を抱くわけないだろ。ってか酔っ払ってるな? もう部屋に戻るぞ」
引き上げていくリューとヴェラを見ながらドロテアが呟く。
「どうやらスパイではなさそうかな」
ドロテアの手には相手が嘘をついていたら光る魔道具が握られていたが、それが光ることは最後までなかったのだ。
― ― ― ― ― ― ―
次回予告
ドロテアにリベンジをせがまれる
乞うご期待!
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