第134話 リュー、追放される

「公爵、リュージーンの実力については納得してくれましたか? ……私は見た。共和国軍を一人で撃退するリュージーンの姿を。リュージーンを敵に回せば、国が滅びる……」


「~っ、しかし、リュージーンが如何に強かろうと、この国の国民である事には変わりないだろう?! 王命は絶対だ、逆らえば死刑もありうる重罪だぞ。国民であれば大人しく捕縛されて裁判を受けるのが務めであろう! 貴様はそれでもこの国の国民か?!」


「悪いが、無実の罪で拘束されたり、理不尽な裁判、理不尽な処刑を受ける気はない。裁判は先日経験したが、ロクなもんじゃなかったしな。そんな国なら、国民で有る事を辞めさせてもらおう」


「きぃさぁまぁ……この国の国民を、辞める、だとー? ならばこの国から出ていくがいい! 追放だ!」


「公爵、いい加減黙れ。王はこの私であるぞ」


「……っ!」


「王よ、あんたも俺がスパイだと思うのか?」


「リューはスパイなどではない! リューは…」


思わずソフィが叫ぶが、王が手を上げてそれを制した。


「ワシは……


…リュージーンを信じる」


王は立ち上がって言った。


「リュージーンの嫌疑については無罪とする。この件でこれ以上リュージーンを訴追することを禁ずる」


「王!」


「これは王命である!」


「…っ!」


王命に逆らえば死刑である。公爵と言えどそれは変わらない。滅多に王命を発令した事がないラルゴ王であるがゆえに、それは重かった。


「リュージーンよ、此度のそなたの活躍は素晴らしいものであった。おかげで国が救われた。感謝してもし切れぬ。


だが、そなたの力は、いささか強すぎるのだ」


「……」


「お主が謎の人物である事には変わりない、王族・貴族・国民は不安になるであろう。それを納得させるには、儂の心だけでは足りぬところがある、儂の力不足、済まぬことと思うが…」

  

王子がその通りだと頷いた。王にリューの危険性を進言したのはレジルドなのだ。


「そこでだ。不安を払拭するために……


リュージーンよ、ソフィを妻とし、この国の王族に連なり、国のために働いてくれる気はないか? いずれは王になってもらう事も…」


「悪いがその気はない」


王の言葉にレジルドと公爵がギョッとした顔をしたが、リューの言葉で出かかった声を止めた。


ソフィは王の言葉に目を輝かせたが、リューの返答にショックを受けた顔をしていた。


「…王位にすらも興味ないか」


「人の上に立つなど、責任が重く、苦労ばかりで割に合わん。ある種、国民に奉仕する雑用係のようなものだろう?」


「ふわっはっは。確かに!」」


王はリュージーンの言葉に笑い出した。


「そうかもしれんのぅ! 常に国のこと、民のことを考え、一日中陳情を聞き対処に追われる日々じゃ。王族の仕事は、民に奉仕する事と言える。


だが、リュージーンよ、王という仕事も、良いところもあるのだぞ?」


「いや、大変な仕事をしている王には悪いが、俺はそんな立場はゴメンこうむる」


「聞いてもよいか? ……お主の生きる目的はなんじゃ? 何のために生きておる……?」


何のために生きている……?


そんな事を突然訊かれても困る。


言ってみれば、リュージーンは女神によってこの世界に波紋を起こすべく投じられた一石なのだ。特に使命や義務を負わされたわけではない、ただ、自由に生きたいと願い、そうせよと言われただけである。


「……俺は自由に生きたい。それだけだ」


「ふむ……以前もそんな事を言っていたな」


「……王よ、俺の働きを評価してくれるのであれば、ひとつ褒美をくれないか?」


「おお、なんじゃ?」


「俺をこの国の国民から除外してくれ」


「追放を受け入れるというのか?!」


公爵が口を挟んだが王に睨まれて沈黙した。


「ああ、それでもいい……そうだな、それがいいかもしれん」


「それが褒美になるのか?」


「俺は、面倒になったのだ。先程も言ったが、俺は自由に生きたい。国民として保護してくれなくていい、代わりに、国民としての義務を負う気もない、という事だ。


今回は成り行きで戦争に手を貸したが、基本的には国の戦争や政に関わりを持つ気はないのだ。


かなり我が侭な話であると思うが、国を救った褒美としては安いものだろう?」


「なるほど…」


リューはこの国に嫌気がさしつつあったのもあるのだが、実はリューなりに、家臣と自分の間で板挟みになっている王に気を使った提案でもあった。


王は自分を信じてくれた。それだけで十分であろう。


王は、多少、人が良すぎるきらいはあるが、この王が居ればこの国は大丈夫……、というか、この王がいるからかろうじて国がなんとかなっているのであろう。


自分がその足枷になるのはリューの本意ではない。そもそも、元からリューは王に仕える気はないし、国に責任を持つ気などないのだから。


「ただし、警告しておく。俺は行きたいところに自由に行くつもりだ。王国内であろうと外であろうとな。邪魔をする奴は排除するし、俺を捕らえようとするなら全力で抵抗する。


俺を捕えようとするな。

俺の自由を奪おうとするな。


先程、俺を敵に回せば国が滅ぶと言っていたが……俺の自由を奪おうとする者は、例え国が相手であろうと排除する。


だが……


俺に関わってこないのであれば、俺からも一切干渉しない事を約束しよう」


リューはふと表情を和らげて続けた。


「俺をソフィと結婚させて王族にしたいというのは、俺を敵に回したくないという意味だろう? 安心しろ、俺は、俺の自由を邪魔しないなら、敵に回ることはない。


もし、どこかの国が俺を取り込み、その力を利用しようと考えたなら、その国が俺に滅ぼされる事になるだけだ」


「この国を出ていくのか? この国を見捨てるのか?」


ソフィは涙目になっていた。


「そういうわけじゃないさ。ソフィは友人だ、助けが必要な時はいつでも呼んでくれ」


「友人、か……」


結局、王はリューの希望を叶えてくれた。国民でなくなる手続きというのは前例がないため、一切の罰則なし、制約なしの外国人(国賓)扱いという形にしたのであった。追放とは違うので国から出ていく必要もないし、国民としての義務を課せられる事もない。(もちろん国内に居る時は基本、国の法に準じ、治安を乱さない事が求められるが。)


地球であれば国家の保護を失うというのは生きづらくなるだけであろうが、この世界ではどうも、そうではなさそうであるとリューはずっと感じていた。


そもそも、リューには警察や軍隊に守ってもらう武力は必要ない。敵は自分で排除できる。病気やケガなども、自分で治療できる。国から国民への圧力が非常に強く、国民への福祉は非常に薄い、それがこの世界なのである。


王は、国を救ったリューへの感謝の印として、一生遊んで暮らせるほどの金貨も報奨として与えた。それについては公爵は不満気であったが、リューが王宮を去り今後関わって来ないと言う事を優先し、何も言わなかった。





こうして晴れて自由な立場となったリュー。


戦後処理でいくつかやり残した事はあるが、後は王がしっかりと始末を付けると約束してくれたので、任せることにし、かねてからの希望通り、旅に出る事にした。





だが……


リューが居なくなった後、ガリーザ王国に悲劇が訪れる事になる。


公爵の手によって、王とレジルド王子が暗殺されてしまったのである……



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


ソフィに助けを求められたリュー

だが断る?!


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る