第85話 こちらにおわすお方をどなたと…

※この世界での爵位


貴族の爵位は上から


王族→公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵→騎士爵


となっている。


※1 公爵という爵位は王族の親族以外には与えられない。何らかの理由で王家に王位継承者がいなくなった場合には、公爵家から新たな王が出る事になる。


※2 侯爵は公爵に並ぶ地位であるが、王族ではない貴族の爵位であり、王位継承権はない。


※3 男爵・騎士爵は一代限りの爵位で、子孫に世襲することはできない。


― ― ― ― ― ― ― ―


「そこの小娘、平民の冒険者ごときが貴族を呼び捨てするとは、無礼でしょう。言葉に気をつけなさい、不敬罪で斬り捨てられてもおかしくはないのですよ?」


「やれやれ、不敬罪はどちらかしらねぇ…?」


ベティが侮蔑の眼差しで見る。


「下がれ無礼者! こちらにおわすお方をどなたと心得る? ガリーザ王国第七王女、ソフィ・ダ・ガリーザ殿下にあらせられるぞ! 控えおろう!」


まるで日本の有名な時代劇のようなセリフを言うマリー。だがそのセリフが信じられない。


「こんな小娘が王女だぁ? 嘘をつ~


「おやめなさい!」


騎士を止めたのは、青い顔をしたトッポ男爵である。実はトッポ男爵は以前、王女の事を遠目に見た事があり、顔を知っていたのだ。


冒険者の格好をしてはいるが目の前に居る少女のその顔を見れば、たしかにソフィ王女である。


「こ、これは、王女殿下。失礼致しました。このような汚いところに王女がおいでとは思いませんでしたので、ご無礼、平にお許しください!」


膝を着き謝罪するトッポ。それを見て、慌てて騎士も膝を着き頭を下げた。


「立つが良い、今はただの冒険者ソフィじゃ、堅苦しくする必要はないぞよ」


それを聞きほっとした顔をするトッポと騎士。


「恐れながら、殿下は何故このような汚い場所に? それに、そこの平民の男とどのようなご関係で……?」


「妾は冒険者になったのじゃ。リューとパーティを組んだ、『ソフィと愉快な仲間たち』というパーティじゃ」


「王女が……冒険者?!」


常識的に考えればありえない話であるが……そう言えば、ギット子爵が以前、ソフィ王女はかなりのお転婆姫であると言っていたのをトッポは思い出した。


実は半信半疑のまま、万が一を考えて頭を下げていたトッポ男爵であったが、ここに至って目の前の小娘が王女である事は確信に変わる。


「して、そのほうは冒険者ギルドで何をしておったのじゃ? 何やら無理難題を受付嬢に強いて困らせておったように見えたが……?」


「い、いえ、そのような事は……、大した用事では御座いませんので……また出直して参りますっ!!」


トッポと騎士は慌てて逃げるようにギルドを出ていった。


その姿を見て冒険者達が歓声を上げる。


「二度と来んな!」


聞こえないよう、完全に出ていってから言ったのはご愛嬌である。






「あ、あの……皆さん、助けて頂いてありがとうございました」


レイラが震えながら言った。気丈に振る舞ってはいたが、やはり緊張していたのであろう、笑顔の頬につと涙が一筋溢れてしまい、レイラは慌ててハンカチで拭った。


「あの! 皆さん一杯飲んで下さい、今日は私が奢っちゃいます!」


「そうだな、これでみんなに一杯飲ませてやってくれ」


リューが金貨を数枚取り出してレイラに渡そうとするが、周囲の冒険者に止められた。


「なんでオマエが払うんだよ? まるでレイラとオマエが特別な関係みたいじゃないか?」


「いや、俺に関わりがある事で、皆に迷惑かけたからと思って」


「バカヤロ、奢るのは俺達だ! レイラ、もう仕事は終わりの時間だぜ! 奢るから一杯飲んでいきな!」


なるほど、冒険者達はレイラを慰め・労うつもりのようだ。男達が皆寄ってきて俺が奢ると次々に言い出す。男達も、普段は憧れてはいてもなかなか一緒に飲むなどできないギルドの受付嬢と飲めるチャンスを逃すまいと思っているのだ。


後輩の受付嬢が遠慮しているレイラを押してギルド併設の酒場のほう移動していった。どうやら後輩も一緒に飲むつもりらしい。意外とちゃっかりしている。


いつもはトラブル防止のため、受付嬢は冒険者達とは一定の距離を保つようにしているのだが、たまにはこういう日もあっても良いだろう。


ふと、リューの前に掌を差し出してくる男が居た。


「奢ってくれるなら、俺は遠慮しないぜ?」


「お前のせいでレイラに迷惑掛けたんだ、金くらい気持ちよく出してくれるよな?」


リューはフンと鼻で笑って、男たちに金貨を1枚投げてやった。


「おし! 毎度ありぃ!」


金をキャッチした男たちは喜んで酒場へとなだれ込んでいく。





ギルド併設酒場で楽しそうに飲み始める冒険者達を見ながら、リューはふと、ギット子爵という名前には聞き覚えあることを思い出していた。


確か、隣の領地を治めている領主の名前がギット子爵だったはず。余り評判の良くない領主だった気が……そう、若い女を拐っていた盗賊の黒幕がギット子爵だったはずだ。


そのギットの手下がこの街に来ている。そして街で若い女性の失踪事件が多発している。何か関係があるような気がしてくる。


とりあえず警備隊長ゴランの耳に入れておくかと思うリューであった。





考え事をしているリューの横では冒険者達の宴会が始まっている。


「お姫さんも一緒にどうだい?」


「ソフィ様に気安く話し掛けるでない」


勇気ある冒険者がソフィに声を掛けていたが、マリーにあしらわれて撃沈していた。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


誘拐犯を捕まえてみれば・・・


乞うご期待!



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