第82話 パーティの名前とスラム調査

スラム街に向かう道すがら、ソフィがパーティの名前をどうするか決めようと言い出した。


リューは臨時パーティのつもりだったので、当然名前など考えていなかった。


「俺はこのパーティを長く続ける気はないぞ?」


はっきり言うリュー。


「何故じゃ? 妾達では力不足だからか?」


「ソフィ達だって、あくまで冒険者を体験しに来ただけで、いずれ王都に帰るのだろう?」


「当然です。ソフィ様は、国のためにも、いずれ相応しい方と結婚して頂く必要があります。そのためにも、王都に戻って花嫁修業をして頂かないと」


「それは大丈夫じゃと言ったじゃろ? 父上は私を嫁に出す気はないと言うておった。いずれ、婿を取るつもりじゃと。もちろん、妾に相応しい、それなりの男でなければ認めぬがな。妾は、リューさえよければ、リューを候補の一人に考えるべきじゃと思うておる。兄上にそう言うた時は咄嗟の思いつきじゃったが、今は、国のためを思えばこそ、それはなかなか良い考えじゃと思う」


「それともお前達、リューを敵に回したいと思うのか?」


そう問われて、マリー達は青い顔でゆっくりと首を振った。


「 もちろん、リューの気持ちを尊重する。できれば妾を好きになってくれれば良いと思うが、どうしても嫌なら、リューが気にいる女を王族や貴族の中からみつけてもらいたい」


「悪いが、俺は人間の女に興味はないぞ?」


「え、そっちの趣味?!」


「…? 俺は人間じゃないからな……ギルドにはとっくにバレてたはずだが……俺は人間じゃない、竜人だぞ」


「竜人、角と鱗があるリザードマンみたいな奴……リューはどう見ても人間……」


「俺も昔は人間だったんだ。この世界に生まれる時に力が欲しいと希望を言ったら、竜人にされてしまったんだよ」


「…希望を言った???」


「また始まった、どんだけホラ吹くのよ。竜人なんて御伽噺にしか出てこない、古代に絶滅した種族じゃないの。そもそも、本当に存在したかも怪しい」


「まあそんなわけで、俺は人間の女には興味はあまりないみたいなんだよ。ま、信じられんだろうとは思うが」


「リューの好みは人間ではなく竜人のメス……?」


「さぁ、竜人の女というのに会った事がないからな、分からん」


「腐女子」か?!


「適当なホラ話で煙に撒こうという魂胆だろう。騙されんぞ?」


「ん? お前達は俺とソフィに結婚して欲しいのか?」


「そんなわけないだろうが!」


「だったら信じておけばいいじゃないか、俺は人間じゃないからソフィとは結婚できない、って事で。おとなしく姫様を連れて王都に帰ったらどうだ?」


「妾は帰らぬぞ。適当な事を言って妾に諦めさせたいのかも知れぬが、まずはパーティの仲間として、リューの信頼を勝ち取るところから始めるつもりじゃ。その過程で、妾の魅力をリューにわかってもらればなお良し、というだけの事じゃ。結婚するかどうかはともかくとして、の」


「ま、もうしばらくは付き合ってやってもいいがな」





ソフィとのパーティをこのままズルズル続けていくのか? 将来的にどうするのか? そう考えた時、ふと、リューは自分の中の小さな感情に気づいてしまった。


「自分は協調性がないからソロでいい」と言いながらも、パーティを組むことを引き受けたり、流されてなんとなくパーティを続けてしまうのは理由があったのだ。


リュー自身に、“パーティでの活動”に未練があったのである。


リューはこの世界で以前一度だけパーティを組んでいた事がある。結局そのパーティもクビにされてしまったが、幼馴染の友人達が自分の事を覚えていてくれ、一緒に活動しようと声を掛けてくれたのは本当に嬉しかったのだ。


クビにはなったものの、彼らはその時までは友人として接してくれていた事もあり、そのパーティでの活動はリューにとっては楽しかった思い出なのであった。


できればパーティを続けたかった。クビになった時、とても悲しかった。その気持ちが未練となって、なんとなく心の奥に引っかかっており、半ば強引にパーティを続けようとするソフィの態度を少し嬉しく感じてしまったりもしていたのだ。


とはいえ、日本で生きていた過去世の記憶が蘇ってからは、その記憶が蘇るほどにその影響が強くなり、リューの人格に多大な影響を与えるようになった。日本で生きた人生は、この世界で生きた人生よりかなり長かった。その世界観が大きくなるほどに、この世界での感覚・価値観は小さなものになっており、小さいが故に本人も気づいていなかったのであった。


人の行動や選択というものは、本人が気づいていないうちに、無意識から湧き上がってくる思いや衝動に左右されている。人が時折、自分の思うのと違う行動や選択をしてしまう、人が思うように生きられないのはその影響である。


その原因は、自分の生きてきた人生の経験の記憶であったり、あるいは過去世の記憶であったりする。特に、過去世の記憶を持たない者は、その感情・衝動がどこから来るのかが分からず、ずっと無意識の中のままである。そしてそれは、無意識であるが故に制御できないのである。


だが、自分の中にある感情、衝動に明確に気づく事ができるならば、その気持が小さなモノであれば整理をつける事も容易である。


自分の気持ちに気づいたリューは、今後どうするべきか、やがて客観的な判断を下す事になるであろう。


だが、今は焦って解消せずとも、しばらくパーティでの活動をしてもいいかと思うリューであった。


なぜなら、実は……


ソフィ達とのパーティが間もなく終わる“予感”をリューは感じとっていたのである。


それは、もしかしたらリューの予知能力が発する警告であったのかもしれない……


リューの未来予知は、直近の危険に特化されているが、もっと遠い未来の事も見ようと思えば見えるのである。


しかし未来は不確定である。一つ選択が変われば、それだけで未来は大きく変わっていく事もある。どれほど強力な予知能力であっても、遠い未来になるほどはずれる可能性は高くなるのだ。


どうなるかはその時になってみないと分からないのである。


考えても仕方がない。その事についてリューは考えるのを止めた。





しばらく黙りこくってしまったリューを気にしたのか、ソフィが声を発した。


「そ、それで、パーティの名前はどうするのじゃ? リューは何がいい?」


「そうだな、じゃぁ『お転婆姫と愉快な仲間たち』とかどうだ?」


「な、なんだか不思議な名前じゃが……、リューがそれで良いというのなら、それにしよう」


「いや、冗談なんだが……」


さすがに“お転婆姫”はマリー達が反対。


ソフィが 『リューと愉快な仲間達』を提案するがリューが拒否。


結局、パーティ名は 『ソフィと愉快な仲間達』に決まったのだった。


「“愉快な仲間”になってしまったな……なんだが変人か妖怪みたいだな?」


「竜人……だから間違いではない……」


    ・

    ・

    ・


― ― ― ― ― ― ― ―


そんな話をしながら、やがて一行はスラム街についた。


更に奥に進んでいくリュー。


スラムは安全な場所ではない。特に、奥に進むとかなり危険な場所となるが、リューが犯罪組織を潰した影響なのか、以前なら若い女四人で歩いていたら怪しげな男たちが様子を伺いながら遠巻きに後を尾行つけけてきたりしていたが、この日はそういう事もなかった。


まぁ仮に襲われたとしても、全員腕が立つメンバーなので問題ないだろう。


やがて、犯罪組織の本拠地があった地域まで到達するが、そこでリューは困ってしまった。リューはゾーンの居場所を知らないのだ。


スラムの奥まで行って誰かに訊けば分かるかとも思ったのだが、どこに行って誰に訊けばいいのかも分からない。そもそも、ゾーン達銀狼のアジトが何処なのかリューは知らないのだ。


犯罪組織のアジトがあるような地域までは来てみたものの、ゾーンのアジトがその地域にあるとは限らない。(事実、ゾーンのアジトはその地域にはないのであった。)


そこで、ゾーンの気配を探るべく、リューは神眼を発動した。適当に行っても大丈夫とリューが考えていたのは、神眼で居場所を特定できるだろうと踏んでいたからなのである。


ところが……、いくら探ってもゾーンの気配を発見できない。どうやら現在ゾーンは街の中には居ないようだ。神眼のサーチ領域をさらに広げて街の外を探してもいいが……


そもそも、神眼によってどこまで広い範囲をサーチ可能なのか、リューも試した事がなかった。やってみたい気もしたが、広大な世界を虱潰しに探していくのも大変時間がかかりそうな作業であるし、危険な地域にソフィ達をおいたまま意識を外に向けてぼーっとしているわけにもいかない。


無駄足になってしまったが仕方がない、戻る事にしたリュー。


ゴランが何か別のプランを準備していると言っていたので、そちらに合流する事にした。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


貴族の命令ですよ?さっさと連れてきなさい!


乞うご期待!



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