第78話 リューの転移が王族にバレました
ハリス王子が冒険者ギルドに押しかけた日
宿泊先であるミムル領主の迎賓用の別荘に戻ったハリスに、戻った早々ソフィは怒りをぶつけた。ソフィとしては、リュー達冒険者に、平民への差別心を持っている王族が居る事をなるべく見せたくなかったのである。
父王や兄王子達が自分に色々うるさい事を言うのは慣れている、それも自分を思ってくれているがためというのは理解しているソフィ。
だが、今回のように大勢他人がいる場所で差別意識丸出しの言動や、ましてや平民の処刑を簡単に命じたりなど、ソフィが激怒するのは当然であろう。
もともとソフィに甘々な父王と兄王子たち、ソフィのワガママにはいつも押し切られてしまうのではあるが、さらに激しいソフィの剣幕に、ハリスもたまらず、しばらく様子を見ると約束したのだった。
翌日、ソフィは街へ買い物に行ったが、約束通りハリスは大人しくしていた。
せっかく王宮から離れた場所に来ているのである、本当は買い物などメイドに任せて、ソフィと過ごしたかったハリスであるが仕方がない。
ハリスは屋敷で待機し、ソフィに付けた隠密からの報告を逐一聞いていたのだった。とは言え、安全な町中で特に大きな問題が起きようはずもなく、無事にソフィは帰ってきた。
だが、その翌日、夜も明けぬ内にソフィ達は屋敷を立ちダンジョンへ向かってしまったのだった。しかも、ダンジョン内で一泊したためその日ソフィは帰らなかった。
ソフィがダンジョンに入ったまま帰ってこなかった、何かあったに違いないと、ハリスは再び大騒ぎし始めた。(ダンジョンに潜ると数日は戻ってこないのが普通であるのを王子は知らない。)
居ても立ってもいられなくなった王子は大慌てて自分の騎士団を連れてダンジョンに飛んで来たのだ。
騎士団とともに馬を飛ばしてダンジョンに向かったハリス王子。そのまま騎士たちとダンジョンに突入しソフィ達を救出するつもりであったが、ハリスが到着したのは、ちょうどタイミングよく、ソフィ達がダンジョンの中から転移で撤退してきたところだったのだ。
「ソフィ! 本当にダンジョンに潜ったのか? 危ない目に合わなかったか?」
「大丈夫じゃ、最期は少し危なかったが、リューが助けてくれたでの。楽しかったぞ」
「きさま、ソフィを危ない目に遭わせるなど、護衛として失格だろうが。罰として処刑だ、お前達、コヤツをひっ捕らえて首を刎ねい!」
ハリスの命令で、騎士たちが剣を抜く。
「兄上! いい加減にするのじゃ!! 簡単に民を処刑するとか言うなと何度言えば。リューは何も悪くない、
ハリス(うぬぬ、本当は私がソフィを格好良く助けたかったのに……! 平民ごときがソフィを助け、感謝され、庇われるなど……けしからん、やはり早めに始末しておくべきだった……)
「……というか、そう言えば貴様、なんでまだ生きている?!」
「生きてるに決まっておろうが? 兄上は何を言っておるのじゃ?」
「アイガ達はどうしたんだ……まさか、貴様、アイガ達を殺したのか?!」
「一体何の話をしている?」
「ああ、王子様に命じられた騎士が俺を殺しに来たんだよ。返り討ちにしたけどな。」
ハリスは、王子の命令なのだからアイガ達は即日リュージーンを再襲撃したものと思っていた。それが成功していたならリューは生きていないはずである。失敗したならリュージーンが生きているのは当然だが……そう言えば、アイガ達の姿は騎士の中に見えない事に今更気づいたのだった。
― ― ― ― ― ― ― ―
実はギルド併設酒場で八方塞がりの状況に
どちらにしても死ぬ可能性が高い命令であったためアイガ達の士気は低く、命令の期限がない事をいい事に、あまり積極的には動いていなかったのである。
リューが翌朝またギルドに顔を出せば、そこから尾行を再開したのだろうが、リュー達はギルドに寄らずに直接ダンジョンに向かったため、待ちぼうけとなってしまったのだった。
リューを討たずに王子の元にも戻れないため、アイガ達はリューが帰ってくるのを未だ、街で待っていたのであった・・・。
― ― ― ― ― ― ― ―
「なんじゃと?! 兄上、リューを殺させようとしたのか?! 手を出すなと言うたであろうが?!」
「いや、その、違う、それは誤解だ! 騎士が何か指示を聞き間違え、勘違いしたのだろう!」
ハリスは必死で誤魔化す。
リューは襲ってきた騎士の心を読んで王子の命令である事を知っていたのだが。しかし、それが騎士達の勘違いであったと言われると、そこまで具体的には分からないという事になってしまう。
なぜなら、リューに分かるのは、騎士達がどう思っていたかだけ。王子にリューを殺せと命じられたと“思い込んでいた”という事だけである。
心を読んでも、それは人それぞれの主観的な思い込みが分かるだけで、客観的に見て事実がどうであったかまでは分からないのである。
つまり、勘違いしていた可能性があるというのは、屁理屈ではあるが一応筋は通っている事になる。
「ええい、もういい!」
ハリスが騎士達に向かって手を振ると、騎士達は剣を納めた。
「さぁ、ソフィよ、ダンジョンにも潜る事ができたし、もう十分であろう、王宮へ帰ろう」
「いやじゃ、帰らぬぞ。妾は冒険者として十分活動するまで帰る気はない」
「何をいっているのだ、お前は冒険者などになる必要はない、王宮に帰って花嫁修行をしておれば良いのだ。いずれ、相応しい男をみつけて嫁ぐ、それが国のため、王族としての務めだぞ?」
「それは大丈夫じゃ、父上は妾を嫁に出す気はないと言っておった。いずれ婿を取るとな」
「なんと! 父上がそんな事を……? いや、気持ちはわかる、私もソフィが嫁に行ってしまうという事になったら胸が張り裂けてしまうだろうからのう……」
「婿と言っても、妾のお眼鏡に適う男でなければ結婚などする気はないぞ。そうじゃのう……リューならば、候補に入れてやってもよいかの?」
「な、何を言ってるのだ?! この男は平民だろうが?! 王女が平民と結婚するなどありえん!」
「叙爵して貴族になれば問題あるまい。なにせリューは転移魔法を使えるのじゃぞ。これは、国にとっても極めて大きな力になると思わんか?」
「転移だと?! そんなのは御伽話の中の魔法であろうが。王宮の魔導院でもずっと研究はされているが、満足な結果は出ていなかったはず」
「おいおい、それ(転移)は秘密だと言ったろうが……」
「今、目の前で使ってしまったのだから、隠しても仕方あるまい?」
言われてみれば、ハリス達の目の前で転移を使ってダンジョンから出てきたのであった……。
― ― ― ― ― ― ― ―
次回予告
リューに決闘を挑んだハリスは返り討ちに。
兄を殺されてしまったソフィは?
乞うご期待!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます