第77話 リュー「サイクロプスにも楽勝ですが何か?」

第九階層は、草原であった。


階段を降り、先に進んでみると、早速この階層の魔物に遭遇した。遭遇したのはトロール1匹である。


トロールはゴブリンやオークと同じような亜人系のモンスターであるが、身長が最低2m以上、中には5m以上にもなる個体もおり、非常に力が強い。


岩から削り出した頑丈で巨大な棍棒を軽々と振り回す。まともに打ち合うのは危険である。


また、肉体も頑丈であり、鈍らな刀ではかすり傷をつけるのがやっとである。


だが、ソフィとマリーの剣は、一撃必殺とは行かなかったが、トロールに十分なダメージを与えた。ベティとアリスの魔法攻撃で怯んだ隙に何度も斬りつける事で、倒す事ができたのだ。


だが、次の相手が悪かった。現れたのは、三体のトロールを引き連れたサイクロプスだったのだ。


身長5m以上、大きい個体になると10m以上にもなる危険度Bの一つ目巨人である。その巨大なひとつ目からは衝撃波を放ってくる。


動きもそこそこ早く、怪力であり、巨大な剣を振り回してくる。


防御力も高く、鈍ら剣では皮膚に傷もつかない。魔法も初級程度の攻撃魔法では怯む様子もない。


しかも、厄介なことに、別の方向からオーガが三体やってきた。


オーガは危険度Bであるが、複数になると危険度Aになる危険な魔物である。さすがに両方はソフィ達では無理であろう。即座に撤退する事も考えたのだが、リューは先日、ダンジョンの中でオーガと戦った事を思い出した。地下ファイトクラブのような所で素手の殴り合いに興じていたオーガ達である。


こいつらもあのオーガ達の仲間なのだろうか?ちょっと確かめたくなって、こちらはリューが相手をすることにした。


「オーガは俺が引き受ける! サイクロプスに集中しろ!」


「一人では危険だ! 一緒に……」


「必要ない! 姫様を守れ!」


見ると、ソフィはやる気満々で剣を構え、サイクロプスに向かっていってしまっていたのだ。慌てて追いかけていくマリー。


リューはオーガに向かってファイティングポーズを取って挑発してみた。だが、反応が鈍い。どうやら、ファイトクラブのオーガとは違うようだ。目にはあまり知性は感じられない。一対一で正々堂々戦うような姿勢もない、ただ闇雲に、一斉に襲ってくるだけで、戦法も技術も何もないのであった。


このオーガ達の相手をする意味はなさそうなので、リューはオーガ達の魔石を転移で抜いてあっさり瞬殺、いつでも助けに入れるようにソフィ達のほうへ戻る事にした。


ソフィ達は、サイクロプスが引き連れていたトロール三体に苦戦していたが、形勢は有利であり、このままならやがてトロールは倒す事ができるだろう。だが、サイクロプスはどうか……?


なんとかトロールを倒したソフィ達だったが、やはりサイクロプスは荷が重かったようだ。


攻撃が通用していない。


ソフィとマリーは前衛で剣を振るうが、サイクロプスの体に剣が当たっても、僅かに表面に傷はつくものの、中に刃が入っていかない。


アリスはソフィを守るため、ソフィの側で防御しながら時折隙を突いて短剣で攻撃したりアイスランスを放ったりしているが、呪文詠唱なしで放てる初級の攻撃魔法程度ではサイクロプスには傷もつかない。


ベティならばダメージを与える魔法を放てそうだったが、呪文詠唱の時間を前衛のマリーとソフィが稼ぐ事ができず、なかなか大きな魔法を放つことができない。


無理に長めの呪文詠唱を開始しても、サイクロプスの巨大な一つ目から発せられる衝撃波が襲ってきて妨害されてしまう。致命的なダメージを受けるほどではないが、衝撃波を受ける度、弾き飛ばされ地面に転がされてしまうのだ。


サイクロプス一体に、四人は押されつつあった。このままでは負けるのは時間の問題だろう。


サイクロプスの大剣を受け止めたマリーが吹き飛んだ所で限界とリューは判断した。


マリーを吹き飛ばしたサイクロプスが返す刀でソフィに斬りつける。その剣がソフィに当たるかと思われた時、サイクロプスの攻撃は見えない壁によって阻まれた。リューが次元障壁を張ったのである。


突然現れた見えない壁に、サイクロプスは不思議そうな顔で触ったり叩いたり、大剣で斬りつけてみたりしていたが、壁はビクともしなかった。


「何? 結界魔法? そんな事もできるの?!」


「限界だな、ここまでだ。帰ろうか」


「というか、リューは何で手伝わないのよ?! リューが敵を足止めできるなら、その隙に私の攻撃魔法で倒せるわ!」


「俺が手を出したらダンジョン体験にならないだろう?」


「は?」


「俺は一人でこのダンジョンを踏破した事がある。俺がやると、お前達が手を出す余地がなくなるからな」


「ダンジョンを踏破したですって?! 随分大ボラ吹くわね! このダンジョンの深層には竜種が居るって話よ?! あんたがいくら強くたって、ドラゴンには勝てないでしょう」


「楽勝でしたが何か?」


「馬鹿にしてんのっ?!」


その時、自分を無視するリュー達に苛立ったのか、見えない壁に腹を立てたのか、サイクロプスが興奮して吠え、持っていた大剣でめちゃくちゃに障壁バリアを斬りつけ始めた。その迫力に思わず全員そちらを見る。


「お、お前なら一人であの化け物を倒せるか?」


マリーはサイクロプスを指差した。


「ほれ」


リューが手を翳すと、サイクロプスの胸に小さな魔法陣が浮かぶ。ビクンと一瞬体を震わせた後、サイクロプスの動きは止まり、ゆっくりと倒れていった。


見ると、リューの手には大きな魔石が出現している。


「こうして、転移で魔石を抜けば、魔物は生きていられないからな」


「ズルイ……」


「ほう、転移魔法とは、そのように便利に使えるものなのじゃな」


「まぁね。お陰で魔物とまともに戦った事はあまりないんだ。あ、ダンジョンボスのヒュドラは少し手こずったな、魔石を抜いても死なないんだよ。頭を切り落としても再生してしまうし、魔石を抜いても再生してしまう、かなり苦労した」


「毒竜ヒュドラ。神をも殺すと言われる猛毒の……」


「いくらリューでも、さすがにヒュドラはホラが過ぎるというもの……え……本当、なの?」


「ダンジョン踏破者はリュージーン、ちゃんとギルドに記録があった」


「え、じゃぁ……本当なの?! このダンジョンのマスターボスはヒュドラなの?!」


「ヒュドラ相手では、おそらく、誰もこのダンジョンを踏破する事はできないだろうな……」


「リューはしたのだろう?」


「さぞや大勢の高ランク冒険者で挑んだのね? おそらくリューはその時の生き残りってところかしら?」


「いや、俺一人でやった。俺は基本ソロだからな」


「ギルドの記録にもソロと書いてあった」


「規格外過ぎる……ヒュドラを単独討伐できるような人間に、私は喧嘩を売ってたのか……」


とりあえず、ダンジョン探索はこれまでと言う事になったので、リューの転移でダンジョンの外に出る事にした。全員体力も魔力も限界で、持ってきた物資も底をついていたためである。


「本当は、ちゃんと帰り道の分まで、物資も体力も魔力も計算して温存しておかなければ、生きて帰れないんだぞ、覚えておけよ」


だが、ダンジョンの外では、意外な人物が待ち構えていた。


そこに居たのはハリス王子と王子の私設騎士団であった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


兄王子がリューを殺せと命じた事がソフィにバレる


乞うご期待!



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