第61話 やられたらやり返す? そんなやり方ではダメだ!

ビンチを倒したその足でリューは五黒星のアジトに乗り込んで行った。


ロンディは確か、五黒星には幹部が他に四人居ると言っていた。ビンチを倒したので残るは四人。


一度はロンディを通じて警告したはずだが、予想通り、素直に従う相手ではなかったようだ。


力を示して絶対に敵わないと理解わからせれば引くだろうと思ったのだが、ビンチの心を覗いてみてそれは無駄であることが分かった。


卑怯な手を使えば悪は必ず勝てる、心の底で卑怯こそが最強だという確信を持ってしまっているようだ。


そして、それは強ちあながち間違いではない。


言うことを聞かない相手は、事故に見せかけて家族を殺すような事を当たり前に行っていた組織である。


今回は子供達を無傷で助け出せたが、リューの目の届かないところで子供達が傷つけられる可能性はあるのだ。


やられたらやり返す。そんなやり方では、こちらが被害を受ける一方である。相手は、失うものなど何もない、守るべきものなど何も持たない者たちなのだから。


相手の守りたいものを壊す事に対する執着、そのためには命を捨てる事もなんとも思わないという、矛盾した破滅的価値観に至っているのである。


幹部だけではない、そんな考えを学習し、慣らされてしまった者たちの中にも、同様の価値観の芽が生まれている。やがてそれが育てば凶悪な犯罪者になる。そうなってしまえば、それは害虫や害獣の類と同様である。もはや救いようがないだろう。


一応、本人たちの考えを確認してからと思ってはいたリューであったが、ビンチの心の奥を読んだ限り、被害を受ける前に根絶してしまうしか対抗手段はなさそうである。




アジトに侵入したリュー。


神眼を使い周囲に居る者を捕捉、頸動脈を止めていく。


手下たちは、リューの姿を確認する間もなく崩れ落ちていく。


無人の野を行くように何の障害もなく進むリュー。


鍵の掛かった部屋も、リューの桁外れの膂力で問答無用でこじ開けていく。


そしてついに、リューは最奥の部屋に到達する。




中にはこれまでとは違う強い魔力を纏った者が三人居るのが識別できた。


こいつらが幹部であろう。


扉には鍵が掛かっていたが、力づくで扉を半ば破壊しながら押し入る。扉ごと外れて倒れてしまった。


派手な音と共に踏み込んできたリューに、三人の男の視線が集まる。


「何者だ?!」


「リュージーンという者だ。ロンディから聞いていないか?」


「お前がリュージーンか。思ったよりガキだな」


※リュージーンは現在16歳。人間族としてみれば、それほど逞しい体躯というわけでもない。子供と言う年齢ではないが、大人かと言われると、やはり、やや幼く見えるのは仕方がないところだろう。


「仲間になるために来たのか? ビンチはどこだ?」


「ビンチは死んだよ」


「何ぃ!? まさか……お前がったのか?!」


「そうだ。こちらの要求を理解してくれなかったのでな」


「要求?!」


「そうだ。お前達にも訊きたい事がある。返答次第ではお前達も死ぬことになるぞ?」


「おもしれぇ、できるもんならやってみやがれ!」


マルゴが剣を抜いた。だが、それをガエタが制する。


「一応、その要求とやらを聞いてみようか」


「既に警告はロンディという男から聞いていると思うが?」


「そう言えば、ロンディの奴は何処に行った?」


「まさかアイツ、一人で逃げやがったか?」


「警告というのは、お前とその関係者に近づくな、というやつか」


「その通りだ。関わってこないなら、こちらもお前達などに興味はない。だが、ビンチとか言う奴が教会の子供達を誘拐したのでな。まったく反省がないようだったので、ビンチには死んでもらうこととなったのだ」


「ビンチを倒したのか……どうやら噂は本当だったようだな。面白い、相手にとって不足はない」


「まぁ待て。それで、お前としては、俺達が手を引き、二度と手出ししないと約束するなら、見逃してくれるとでも言うつもりか?」


「そうだな。本当にそれが守られるならな。ビンチとか言う奴は、その場だけ言い逃れて、後でまた子供を殺すつもりだったらしいので、死んでもらうことになったのだが。お前達はどうなんだ?」


「分かった、手を引こう。お前とその関係者には今後一切手を出さない」


「ガエタ?!」


「などと言うと思ったか!? 裏の世界でそんな事をしたら生きていけないんだよ!」


「やはり、お前達もビンチと同じか」


「ああ、やられたらやり返す。倍返しでな。力で勝てなければ、闇討ちしてでも、家に火をつけてでも、家族を殺してでも、どんな事をしててでも最期に相手にギャフンと言わせて終わらなければならんのだよ。そのために、どんな犠牲を払っても、例え自分達が死ぬことになってもな」


「やれやれ」


リューは肩を竦めた。


「なら駆除するしかないな、やはり」


「舐めやがって!」


マルゴが剣を抜きリューに斬りかかる。だが、突然、マルゴの両手両足は胴体から切り離され、マルゴは床に転がった。


気がつけば、リューはマルゴの居た場所の後ろに立っていた。リューは時間を止め、マルゴの手足を切断したのだ。


次元斬ではなく、魔剣フラガラッハを使ったので、治癒魔法があっても復活はできないだろう。


「?!……何が起きた?!」


リューの動きがまったく見えなかったことに驚くゴーン。


慌てて剣に手をかけたゴーンだったが、手の中から剣が消えた。気がつけば、ゴーンの剣はリューの手の中である。リューが転移で剣だけ取り上げたのだ。


「ここに来るまでに部下がたくさんいたはずだが?!」


「全員眠ってもらった。放っておけば間もなく死ぬだろう」


「剣を返せ、卑怯だろう。正々堂々と剣で戦え!」


「お前では相手にならんがな」


リューが投げ返した剣を受け取り、即座に抜き放って構えるゴーン。


だが、リューはいつのまにかゴーンの背後に居て、首に剣を突き付けていた。


「馬鹿な……影も見えんとは、どれほど速いのだ?」


リューは時間を止めて移動しているので、見えるわけがないのであるが。


「終わりだ」


リューの魔剣がゴーンの首を飛ばした。


その時、予知能力が発動し、ガエタが雷の矢サンダーボルト火球を放ってくるのをリューは察知した。


リューは即座に亜空間を開く。放たれた雷矢は亜空間に吸い込み収納される。


「なにィ……?!」


「返すぞ」


リューは亜空間の出口をガエタの頭上に開く。亜空間から吸い込んだ雷矢が飛び出しガエタを襲う。ガエタは自ら放った雷矢に貫かれて倒れたのだった。


「ロンディの言った通りだったか。手を出してはいけない相手だったな」


ロンディの意見をちゃんと聞いておけば良かった。


「振り返れば、ロクな人生ではなかったな。だが! お前も道連れにしてやる!!」


瞬間的に恐ろしい熱量が発生し、アジトは大爆発した。ガエタが自らの死に際のために用意していた自爆魔法であった。


アジトをすべて吹き飛ばしてしまうほどの爆発であった。


もちろん危険予知能力で察知していたリューは転移で避難していたので無事であったのだが。


激しい爆発で建物が吹き飛んでしまい、五黒星のアジトだった建物は更地になっていた。


こうして、スラム奥の2つ目の犯罪組織、五黒星は壊滅したのだった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


五黒星を壊滅させたリューであったが、その頃、冒険者ギルドで大事件が?!


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る