第42話 悪い人を退治して下さい

冒険者ギルドの扉を開けて入ってきたきたのは、まだ幼い女の子であった。


幼女は冒険者ギルドの中を見回すと、受付カウンターを見つけて近づいていった。


受付に居たレイラは、受付カウンターが高すぎて幼女には届かないのを見て、カウンターの外に出てしゃがみ幼女と目線を合わせて尋ねた。


「いらっしゃいませ、可愛いお客さま。冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「村を襲う悪いトウゾクをやっつけて!」


「ええっと、冒険者に討伐依頼を出したいと言う事ですか?」


「街の冒険者ギルドってところに行って頼めば悪者をやっつけてくれるってお姉ちゃんが言ってた」


「うーん、ごめんね、冒険者にお仕事を頼むには、お金がかかるのよ……」


だが、幼女は小さな巾着を差し出した。レイラが受け取って中を見てみると、銅貨が数枚入っていた。


「あたしの貯金、全部あげる!だから、トウゾクを倒して、お姉ちゃんを助けて!」


困った顔をするレイラ。銅貨数枚で、盗賊の討伐依頼など受ける冒険者は居ない。


そもそも、もし盗賊に村が襲われているのが本当なら、それは基本的には領主が対応すべき案件である。


手強い盗賊団などの場合、賞金がかけられ、冒険者が賞金目当てに盗賊退治を行う事はあるが。


もちろん、盗賊退治をすれば冒険者にも利益はある。犯罪奴隷として売れば金になるし、賞金首が盗賊の中にいる場合もある。


だが、基本的には冒険者の相手はモンスターであって人間ではないのである。街の治安を守っている警備隊などは人間を相手にするのは慣れているが、冒険者は知能の低い魔物や魔獣を相手にするのが仕事なのだ。ずる賢い人間を相手にするのは、魔物専門の冒険者にとってはリスクが高い仕事となるのである。


賞金首ばかりを狙う賞金稼ぎを仕事にしている者達も居るが、そういう者達は対人間用の特殊な技能に特化精通している事が多く、冒険者とは呼ばれない。


とりあえず、レイラは幼女を応接室に通し、詳しい事情を聞く事にし、同時に警備隊詰め所に、誰か寄越してくれるよう使いを向かわせたのだった。


     ・

     ・


― ― ― ― ― ― ― ―

ちょうど訓練場からキャサリンとリューが戻ったので、一緒に幼女から事情を聞く事になった。


幼女の名はセーラ。セーラの村は、ミムルの北にあるゴボという小さな村らしい。


最近、盗賊が村を襲うようになり、村の金品や作物を奪っていくようになったと言う。


そして、セーラの姉のマリンという少女を見かけた盗賊が、マリンを差し出すよう要求してきたのだとか。


セーラは、姉を助けたい一心で、一人で村からミムルまで歩いて来たようだ。5歳だそうだ。年齢の割にはしっかりしている印象ではあるが、それにしても、五歳の幼女が一人で森を抜ける街道を歩いていて、途中で魔物に襲われなかったのはラッキーとしか言いようがない。


そこに、警備隊から人間がやってきた。姿を見せたのはなんとゴランであった。


ゴランは第一警備隊の汚職を摘発して以降、警備隊全体の隊長に就任したと聞いた。そのゴランが態々やってきた事に驚く一同だった。


「なに、新しく冒険者ギルドのマスターに就任した人物に挨拶を兼ねてな」


なるほど。


「リューにもちゃんと礼を言ってなかったな、その節は世話になった」


「別に礼などいらん。それより……」


幼女から聞いた説明をゴランにするリュー。後は警備隊が治安出動すれば万事解決だろう。この街の領主は、多少ケチではあるらしいが、住民の事もある程度考えている人物だそうだから、見捨てる事はないだろう。


だが、予想外にゴランは厳しい表情になった。


「それは……少し難しいな」


「なぜだ?」


「その村は、確かにミムルに近い場所にあるのだが……そこはミムルの領土ではないのだ。もう隣の貴族が治めている領域なんだよ。治安出動は、隣の領主が行うべき事で、ミムルの我々が出張っていくと問題が起きる可能性が高い。かなり癖の強い領主でな。。」


「ならば隣街の領主に連絡して兵を出して貰えば……」


「それも難しいだろうな。隣の街の領主、ギット子爵は、あまり評判が良くない人物でな。領民の事をあまり大切には考えていないという噂だ」


「ゴボの村のために警備兵は出さないと?」


「おそらく。ゴボの村は大して産業があるわけでもない山間部の寒村だ。守る価値がない村に兵隊を出さない、そういう人物だと聞いている」


「悪い人、やっつけてくれないの?」


「……ゴラン、冒険者が依頼を受けて盗賊退治をする分には問題ないんだよな?領主に雇われた警備兵では問題があるだろうが、村に雇われた冒険者が行く分には、ミムルの住人だろうが関係ないんだろ?」


「まぁ、それはそうなるな」


「でも、冒険者に依頼するにはお金がかかります」


「お金ならあります、お願いします!」


セーラが銅貨数枚しか入っていない巾着を差し出す。


「ごめんね、冒険者の人を頼むのには最低でも「その依頼、俺が受けるよ!」」


リューが口を挟んだ。


「冒険者は利益のために動く、そう言ったのはリューじゃないの。まったく利益にならない依頼を受けるのは趣旨に反するのでは?」


「ギルドが冒険者に“それ”を強要するのは間違っている、と言っただけだ。冒険者が自らやると言ってるなら、それをサポートするのがギルドの本来の使命じゃないのか? それに、こういう仕事を受ける事が、冒険者ギルドのイメージアップにも繋がると思うぞ」


「……なるほど。だけど、リュー一人で大丈夫?……ってリューなら心配ないか」


キャサリンは、先程リューに触れる事すらできなかったのだ。確かにリューなら盗賊団など一人で十分かも知れない。


キャサリンはレイラに依頼として手続きするように指示した。盗賊団がセーラの姉を受け取りにくるのは今夜だと言う。急がなければならない。


「警備隊の馬を貸してやろう!」


だが、リューは必要ないと言う。リューがセーラと手を繋ぐと、二人の足元に魔法陣が浮かび、二人の姿は消えてしまった。


「……転移?!」


ゴランはリューの転移魔法については知らなかったため、しばらく絶句していた。


実は、キャサリンはリューの戦いぶりを見るために、一緒に行きたかったのだが、言い出す前に置いていかれてしまった。


だが、キャサリンは諦めなかった。盗賊が来るのは夜のはず、今から馬を飛ばせば十分間に合う。キャサリンは警備隊の馬を借り、村に向かって走り出したのだった。



― ― ― ― ― ― ― ―


次回予告


リュージーンの盗賊退治


乞うご期待!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る